ナポリタン

今日も怒られてしまった。

「君は失敗が趣味か!」

なんて、僕だって失敗をしようとしてやっているわけではない。これは誰もが同じだ。そもそも失敗というのが悪い。別に失敗は 100 %失敗というわけではないだろう。失敗をすることで学習できることもあるのに、頭ごなしにそう怒鳴られてはこっちも気分が悪くなる。

はぁ、こう怒りが落ち込みに変わると急に腹が減ってしまう。どこかに飲食できる店はないだろうか。今日は嫌な大人の姿を見たから子供の頃に戻れそうなメニューが置かれている店にできれば入りたい。ハンバーグやオムライス、カレーにグラタンなど可愛いメニューの多いのは大体洋食だ。かといってファミレスに入り食べるのも気が引ける。どこかいいところはないだろうか。そう考えつつふらふらと歩いていると、「ふっ」と目が覚め、我に返るような香りが鼻先をかすめた。僕はその香りを辿ってみた。

ここか。と着いたところはイタリア料理店だった。そうか、あの香りはトマトの香りか。そこで僕は頭の中でミートソースのかけられたスパゲティが浮かんだ。

よしここにしようと思うが早いか、僕は店内に飛び込んでいった。


 

店内に入った途端、華やかな香りが僕を包んだ。

店内はジャズが流れており、ウェイターの制服が水色と白のストライプのメイド服で可愛い制服だ。

綺麗なウェイターがお冷を持ってくると同時にメニューを持ってきてくれた。メニューを開くとそこには様々な種類のパスタが書かれていた。そして一番上には「イタリア人が作る手打ち生パスタ」と書かれていた。僕は期待が高まっていた。もう口の中はミートソースを渇望しているわけだが、一応ほかの種類をながめてみた。ペラリとラミネートされたページをめくると、僕の脳内と口の中のミートソースを吹き飛ばすような名前が出てきた。

「なつかしのナポリタン」

僕はするっとミートソースを裏切り、ナポリタンに変更した。

ナポリタン。忘れていた彼もまた洋食のスターだ。生まれは日本だから洋食というのはおかしい気もするが、まぁパスタだから洋食という事で。

ナポリタンには様々な思い出がある。「いきものがかかり」のライブに学校をサボり行った帰りにコンビニで買ったナポリタンを食べていたら先生に見つかったこと。一番小さい頃のものだと、たぶん祖父と横浜に行った時だ。あれはたしか 7 歳だった。あの時は 9.11 とか世界的にも凄いことがおこっていて覚えている。

そのとき祖父にナポリタンは日本でできたと初めて聞いた。今思うとそれを知っていてよかったことは何もないが、僕にとってはいい思い出だ。


「お待たせいたしました。懐かしナポリタンです。」

と言いながらウェイターがナポリタンを持ってきてくれた。

なかなか具が多く。ベーコン、ピーマン、タマネギにトマト、さらにはエビまで入っている。これは美味しそうだ。僕はフォークを持ちさっそく手を付けた。

先ずはパスタからだ。そう思い僕はパスタの波にフォークをスッと入れた途端、僕は驚いた。パスタの波にフォークを差し込み巻いているだけで分かるほどのモチモチ感だ。まだ食べていないのにもかかわらず気分がおいしく高揚してきた。

いざ口に運びパスタを噛むと、パスタの中から上質な小麦の香りが広がり、噛みしめるたびにパスタの中からトマトケチャップの程よい酸味とエビやベーコンの旨みが溢れてくる。自然と顔がほころび、頬が緩む。

次はパスタと具を絡ませて食べてみた。

口に運んだ瞬間、口の中は大暴走をしている

エビのプチプチと歯切れの良くも、しっかりとした弾力のある食感。噛めば噛むほどエビの魚介本来のエキスが溢れて止まらない。

ピーマンとタマネギのシャキシャキ感。ピーマンはケチャップとタマネギの甘みの中にほろ苦さを与えており、嫌にならないほどの苦みを演出している。タマネギは滑らかな口当たりをしていながらも、噛んでみるとジワァと甘みが中から出てくる。食感は似た二人だがお互いの個性がケチャップというシンプルな味付けにとても合っている。

コリコリとしたこの食感はマッシュルームだろう。これもキノコの旨みが噛むほど出てきて、美味しさにバラエティーを与えてくれる。ナポリタンを陰ながら支えているように思う。

この華やかながらも芳しい香りはベーコンだ。そうかなるほど、このベーコンはきっと手作りだ。既製品ではなかなかこんな香りを出すことは出来ない。お店に入った時に僕を包んだのはきっとチップの香りだ。


シャキシャクッ プチッモギュモグッ コリッシャキッモグ


口の中では様々な食材の音が暇なく鳴っており、少しせわしなくも楽しくなってくる。僕はあっという間に完食した。

僕が食後の水を飲んでいると

「オクチニ合イマシタカ?」

と言いながらイタリア人のシェフ兼オーナーが出てきた

「それはもう!嫌なこともすっかり忘れて幸せになりましたよ。」

「ソウデスカ。ソレハトテモ料理人トシテ冥利ニツキマス。」

 それからオーナーは色んなことを語ってくれた。

 初めて日本に来たとき食べ感動したものがナポリタンだったこと。

数年後に来たら店は閉まっており、地域の住人までもが悲しんでいたこと。

それ以来、食べて感動したナポリタンを絶やさないようにするためこのお店を建てたことなど、様々なことを語ってくれた。

きっと誰にでもそれは母の味だったり、初めての味だったりと、理由は様々だろうが心に残る味があるのだろう。

なんだか心も一緒に満たされた気分だ

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