第3話 日没

西の方角にゆっくり日が沈んでいきます。

お姫様と門番はお城のテラスでその光景を見ていました。

「わたし、死ぬなんて怖い」

「何も貴女が死ななくても良いのです。先ほどお婆さまも仰られておりました。貴女が犠牲になる必要はないのだと」

「でも、このままじゃ国の人々だけでなく、世界中の人々が飢えや病で倒れてしまうわ。そしたら今度こそ、人間は絶滅してしまう」

「……」

「なぜ、かつての人々は傷つけ合ったのかしら」

「それは、人間に欲があるからではないですか?」

「欲とは悪いものかしら」

「いいえ。たとえば、あまーいお菓子を食べる」

門番は腰に下げている麻袋から美味しそうなマフィンを一つ取り出し、それをお姫様に渡しました。

「それは良い欲ね」

と、お姫様はマフィンを半分にして大きい方を門番に渡しました。

次に門番はテラスの下の庭園へ降りて行き、いくらか花を摘み終えると帰ってきました。

「それから花の冠。貴女にあげます」

「それも良い欲ね」

シロツメ草で出来た花冠を頭にのせると、お姫様はくるりと回ってみせました。

「僕は、父の病気が治ったら世界を旅して回ろうと考えています。これは僕の夢でもあります」

「それはとてもとても良い欲だと思うわ」

「僕は人々が傷つけ合った理由が少しわかる気がします。結局みんな不器用なんです。あれやこれやと決めつけを作ってみるけれど、心は自由でいたいのに……」

「そうね。でも、解決策はきっとある。世界に色が戻ったって、過ちを繰り返さなければいいだけのことだわ。みんなが幸せになる方法は必ずあるわ。わたしはそう信じることにする」

「……お姫様にはどんな欲がありますか」

「わたしは、夕日が何色なのかを知りたい」

「良い欲ですね」


「あ、もうじき夜になる」

「ええ……いつか争いはなくなります。人々が争い合うのに飽きた頃に、平和な世界が訪れるでしょう」

「ねぇ、手を繋いでもいい?」


西の峡谷に太陽が入っていくのを見届けながら、2人は手のひらの温もりを通して互いの体温を確かめ合いました。そして、お姫様は叫びました。それも世界中に聞こえるような大きな声で。

「罪を犯した愚かな人々よ。あなた方を許します。たった今、この瞬間から平和な世界への扉は開かれました。来たるその日まで、安らかに眠りなさい」

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