第17話
路地を戻るようにして、元居た場所へと帰る。目印にしていた先ほどの男はまだそこで寝転がっていた。
「ギザル様はいたか?」
自分たちの顔を見入るようして声をかけてくる。
「いや、外出中で留守だった」
俺は首を振るようにして、返事をする。
「そうか。なら早く街に戻る事をおすすめするぜ」
男は立ち上がり俺らとは真逆の方向へとたどたどしく足を進める。
(やはり、街が危ないことは確かのようだな)頼む、間に合ってくれ......
「急ごう、街が危ないかもしれない」
俺たちの息がピッタリ合ったかように、3人の頷きは同じだった。走って街へと向かう。
ーー
街に近づくに連れて悲鳴やらなんやらが入り混じった声が大きく聞こえてくる。暗い路地を抜けて明るさが照らしていく。
「革命軍よ。誰か助けて......」
女性の声は見る見るうちに小さく消えかかっていく-そして遂には完全に聞こえなくなる。
「俺たちに、逆らう奴は誰であろうと許さん! 覚悟しろ」
右目に眼帯をし、黒いコートを纏った金髪の男が馬に乗り大声で叫んでいる。その後ろには軍の一員だろうか。馬に乗った兵士たちが連なっている。こいつがボスのギザルなのか。
「お前が、ガルカス軍のギザルか!」
俺は怒りを抑えるのに必死だった。目の前で死に行く民を見たことに対する純粋な怒りが込み上げてきた。
「なぜ俺の名前を知っているんだ。ん、そこにいるのは.....」
俺の隣の2人を見るや否や鼻で笑う。
「久しいな。セイント軍のキグナス。それからセリナ王女よ」
キグナスもセリナもギザルのことを知っていたのか。
「キグナス、セリナ知り合いだったのか?」
セリナは首を横に振る。
「知らないわ。ガルカス軍は一回全滅したはずだもの」
キグナスはコクリと頷く。
「知ってはいたが、奴の姿の変わり様で分からなかった」
なるほどな。この世界では死んだ者もよみがえる。だからこそ、争いが絶えないんだ。
「なぜこんなことをする。お前たち革命軍が街の平和を脅かす限り、この国は変わらない」
ギザルは眉をピクピクとさせながら答える。
「なぜだと? 力こそが正義。語り合いなど時間の無駄ではないか。そうは思わないか?」
武力で人を制圧するなんて、国として合ってはいけないと俺は思う。それはただの自己満足にしか過ぎないから。このまま好き勝手やらせる訳にはいかない。
「お前の言っている事は、間違っている! 街の人がまともに暮らす事すらもできなくしているんだ。分かってるのか?」
「五月蝿いガキだな。お前から片付けるとするか」
背中に担いでいる片手で大剣を抜きこちらに刃をまっすぐに向ける。街の人は一斉に家に逃げ込んでいる。
「これはな。俺のお気に入りの剣でな。名をガレイブソードという。店の特注品で俺しかもってねえ」
血の痕が滲んでいる剣は一体どれくらいの人を襲った事を物語っている。
「お前を殺す前に一つ聞こう。名は何と言う?」
こちらを剣で差す。
「俺は二居等二斗。職業はニート」
「二斗か。短い間だったが、これでお前は終わりだ」
大剣が俺の頭上へと振り下ろされる。俺はとっさに
「ふぅ。危なかった」
剣は空を切るようにして、大地へと下ろされる。土は盛り上がり剣の音が響く。受けとめていたら奴にやられていた。
「なかなかやるなお前。始めてみる能力だ」
感心している所悪いが、こちらは3人。向こうは何十人引き連れている。明らかに分が悪い。しかし、見過ごしたら被害は拡大してしまう。どうすれば......
――そういえばキグナスの姿が見えない。どこにいってしまったんだ。
ーー
キグナスはセイント軍の旗を掲げ部下と共にこちらへと向かってくる。白い旗には鳳凰の刻まれた盾の絵が描かれている。
「人数的にこちらが不利だからね。援軍を呼ぶことにしたんだ。そちらも何も問題はないだろう、ギザル」
(自軍はだいたい10人くらいだろう)
「けっ。お前みたいな奴が一番腹が立つんだよ俺は」
キグナスは、本当にセイント軍の隊長だったんだな。未だに信じられない。
「二斗、私も援護するわ」
セリナの回復能力は折り紙つきだ。これで心配せずに派手に戦える。
「3対1か。俺はお前らみたいなのに興味はないがな」
「セリナは戦わない。2体1だ」
「2人も3人もたいして変わらないから問題ない。俺はぶっつぶしてこの国を乗っ取る。それだけだ!」
ギザルは剣を構えて戦闘態勢に入る。大剣を片手で意図も簡単に持ってみせる。
「それでは、再開しようか。こちらから生かせてもらおうかっ」
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