第13話 平穏な日常②

 眩しい日差しとともに、俺は目覚めた。お金を溜まってきた事だし、生活するには支障をきたすことはないだろう。


 もう数日は経っただろうか。この世界に自分が適応しつつある事に驚いている。グランド王国は、お金が稼ぎやすいし現世よりもずっと生きやすい。職業がニートで、最弱の能力だったという事を除けばだが。まるで夢の中にいるような、そんな感覚にとらわれる事もある。


 ーー俺はまだキグナスの事を信用できないでいる。言動を見る限り嘘を吐いている様には見えない。だけど裏の組織というのが、どうも引っかかる。現世で言うのであればヤクザやマフィア行ったところに属するのであろう。俺やセリナをいつ裏切るか分からない。用心することに越したことはないだろう。

 ここは一つ探りを入れて見ることにするか......



「キグナス。昨日言っていた、セイント軍について、詳しく教えてもらえないだろうか?」

「二斗君は、私の事をまだうたがっているようだね」


 穏やかな表情の中に少し暗い雰囲気を漂わせている。初めて酒場で会ったときと同じ物を感じる。目が笑っていないからか、なんとも言えない不気味さを匂わせている。


「いや、興味があるってだけだ。無理に教えてくれとは思っていないさ」


 ここで、やりあったとしても勝てる確立は0に近い。それにセリナを巻き込みたくは無い。


「詳しくは語ることはできない。こちらも守秘義務があるのでな。住人にベラベラと話すことはできない」


 そう言うと、軽く頭を下げる。今の彼には、先ほどの暗い雰囲気はない。いつもの穏やかな表情に戻りつつある。


「それならいいんだ。変な事を聞いてしまって悪かったな」


 教えてはくれないか。隊長という地位もあってだろうか、言い慣れている感じはする。他の奴にも聞かれる事があるのだろう。


「それよりさ、お金ががっぽり稼いだわけだし一杯やりにいかない?」


 セリナはちょこんと首を出す。朝からテンションが高い。今までの会話を人事の如くまるで聞いてない。能天気で、マイペースな姫様だな。でも、こういうところが俺も好きだし、PTには欠かせない存在である事も確かだろう。


「俺も賛成。休むことは時には大事だし」


 そこっ!お前は毎日が休みだっだだろ。オールサンデーとか言わない。こっちでは、しっかり働いているから問題はないだろ。


「私も、同意見だ」

「決まったわね。早速行きましょう」


 キグナスも同調するように頷く。

 朝から飲みに行くとか、姫様すこしハメを外しすぎじゃないですかね。 


「私、今から着替えるから、お2人さん外にでていってもらえるかしら」


 彼女は、そう言うと髪を掻き揚げる仕草をしたかと思うと、純白のローブを脱ぎ始める。透き通った肌が、衣服からちらちらと顔を見せる。ちょっと待て。俺達は外で着替えろってことか。全く自分勝手にも程がある―仕方なく、外に出ることにした。


「キグナス、あいつはああ言う奴なんだよ」

「いかにも姫様って感じで私は良いと思いますよ」


 キグナス...お前に共感して欲しいと思った俺がばかだったよ。


ーー


 姫様の着替えを待つこと数分。


「お待たせ」


 上下黒い服で所々アクササリーが施してある。なんというか大人っぽい。首にはダイヤのネックレスが掛かっている。髪からはいい匂いがする。


「二斗、じろじろみて。私なにかおかしいかしら」


 つい見とれてしまっていた。こうしてみると、やはりセリナは姫なんだな。


「始めてみる格好だから、少し驚いた。似合ってるなと思って」

「そ、そう」


 少し顔を赤らめるようにして答える。神様、天国はここですか。


「それじゃあ、行こうか」


 キグナスの声を聞き、ようやく我に戻る。


「着いたー」


 セリナの元気一杯の声が街に響く。


「セリナ、はしゃぎすぎだよ」

「もうーはやくしなさいよ。先いくからね」


 そう言うと駆け足でお店の中に入っていく。ここずっと、忙しくて飯もまともに食えていなかったし俺もさすがにお腹が空いてきた。


 お店の中へと入る。ドアにはベルが着いており、カラカラと音が鳴る。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

「3人です」

「はい。ではこちらへ」


 事務的な受け答えを済ませるとテーブルに座る。


「何を食べようかしら」


 メニュー表を3冊テーブルに広げる。


「じゃあ、私はスライムのカルパッチョとクリーム餡蜜と、フォアグラソテー。グランド特製ビールで」


 すごい頼むなー。普段からこれほどの量を食べているのか。感心してしまう。


「僕は、ゴブリンスパゲッティーとグランド特製サイダーで」


 飲み物前には、必ずといって良いほどグランド特製と書いてあるな。さては、家で作れない高級感をだしているんだろうが俺は騙されないぞ。


「俺は、ドラゴンのスープとグランドご飯。後、グランド特製クリームソーダで」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 復唱を終えた、店員さんはお店の厨房へと入っていく。厨房ではガッチリとした体格のシェフが世話しなく動いているのがみて取れる。


「セリナって、けっこう大食いだったりする?」

「これくらい普通よ。王宮では、毎日シェフの方達が腕によりをかけてつくってくれるもの」


 自炊しなくて良いのは貴族ならではだな。たくさん食べても太らないとか羨ましい。何処に消えて行くのだろうか。


「お待たせしましたー」


 頼んだ料理がところ狭しと並ぶ。以外にもモンスターを食えるんだな。みんなの分の料理が届いたところでセリナが掛け声を上げる。


「それでは、ジルクニス討伐完了お祝いパーティー始めるわよ」

「乾杯!」


 3人のグラスがカランと音を立て、振動する。

 俺、今生きているって実感がある。一緒にクエストをする仲間が居て、こうして楽しく食事を取っている。異世界にきてよかったとしみじみ感じる。


「食べないの、冷めるわよ」


 がっつりと食べ始めるセリナ。


「ああ、たべるよ」


 そうだ。俺の異世界生活は始まったばかり。これから大変なこともあるだろうけど仲間が居ればきっと乗り越えられる。

 俺たちのパーティは夜まで続いた。


「ご馳走様」

「ごちそーさん」

「お粗末様でした」


 皆がそれそれちがう、言い方で両手を揃えて言う。

 セリナは立ち上がるなり、体をフラフラとしており、足もおぼつかない様子だ。


「セリナ、酔ってないか?」

「よってるわけないでひょ。私こうみへておさけにわつおいの」


 舌ったらずな口調で言う。お前よってるのばればれだから。もっとましな嘘をつけよな。


「しょうがないな」

 

 俺は、セリナが倒れたりすると危ないと思い、おんぶの格好をして彼女を持ち上げる。


「ちょっと、なにやって」

「仕方ないだろ。お前フラフラしてて危ないし」

「わかったわ。でも恥かしいから今日限りだからね」

「はいはい」


 軽いな。思ったより軽くてびっくりした。


「……すぅ」


 首に寝息がかかる。うお!びっくりした。なんだ寝ちまったのかよ。だから言わんこっちゃない。酒臭いのは嫌だがな。


「二斗君。姫様を頼むよ」

「ああ」


 もう遅いし宿に戻ることにしよう。

 蒼い月が空に広がっており、外はきれいな夜景が広がっていた。

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