第4話 王宮

「はぁ〜 すごいなぁ」


 思わず俺は声を零す。 

 目の前に広がっていたのは、高級そうなレッドカーペットが敷き詰めてある床。金でてきているであろう鳳凰が中央に飾ってある。部屋が何箇所もある。外壁は金で統一されている。高級感溢れた内装に俺は驚きを隠せなかった。

 中央には、渦巻く螺旋階段がありその奥には頑丈そうな鉄製で出来た扉がある。


「父上帰りました」


 彼女はスマホのような端末を耳に当て話しかけている。気になったので聞いてみることに。


「その機械は?」


 彼女は、少し溜息をついてから、めんどくさそうに話す。


「これは、タイケイというアイテムなの。電話をするものだわ」


「現世で言う携帯みたいなもんか」


 ――確かポケットにスマホが入っていたような。ズボンの前ポケットからゴソゴソと取り出す。家に電話できるだろうか。俺は家が恋しく思っていた。電源を点けて電波を確認する。......ですよね。圏外とでかく表示がされており繋がらなかった実際には小さく書かれていたが、ショックのあまり大きく表示されていると錯覚すらしていた。


「父上の許可がおりたわ。こっちよ、ついてきて」


 そうこうしているうちに、セリナさんのご厚意で、どうやら俺はここで一先ず休めることになった。


「セリナさんの父はどんな人なの?」


「私の父は、若い頃からずっと王として職務を果たされているわ。民の事を第一に考えて、行動している易しい父上ですわ。ですが.....怒ると怖いのよね」


 そう言うと、彼女は怒られたことを思い出したのか身震いをする。その姿は、何かに怯えた仔犬のようだった。


「セリナさんも怖いことあるんだ」


 気の強い彼女が、身震いする姿を見て告げる。本当はからかいたかっただけだが。


「あたり前でしょう。父上が一番怖いわ」


彼女は俺の平凡な回答に少々イラついた様に早口でまくしたてる様に言った。

どんだけ怖いんだよ。俺の額にはいつの間にか冷や汗がタラタラとでていた。


「着いたわ。二斗、この先私の動きを全て真似しなさい。くれぐれも変な事はしないでよ。分かった?」


 彼女の気迫に押されてしまい拙い返事をする。


「ああ」


 真似ればいいのか。意図する事がよくわからない。

 彼女は堅く閉ざされた扉を開ける。ガガガと軋むような音を立て扉がゆっくり開く。


ーー


 大きな椅子が二つ隣り合わせで等間隔に並べてあった。一つは腰を掛けている人がおり空席ではない。腰を掛けている王様は髭を首筋まで蓄えており顔のシワが目立つヨボヨボだった。頭には王冠を被っている。だがはたからみても貫禄がある様に感じた。


「父上ただいま戻りました」


 彼女は正座をしてお辞儀をする。普段の声より随分と厳しめだ。


「二斗も早く」


 俺も合図にすぐに気付き、同じ体勢をとる。


「新居等二斗です。えっと、路地で寝ている所を王女様に助けていただきました」


拙い自己紹介を済ませるので一苦労で、それ以上は何も発言ができなかった。


「ほう、そうか君が二斗か」


 白髭をいじりながら白髪の王様が答える。声は思ったよりハスキーで歳相応とは決して思えない。


「セリナよ、その男とはどういった関係なのだ?」


「路地で寝ていた所を見て助けました。それだけの関係です父上」


「左様か。見た所、この国が初めてのようじゃの」


俺は会話を聞いていてポカンとしていた。なんで、初めて来た事がわかるのだろうか。シュナイダーさんと会った時もそうだったな。

 俺は隣に居るセリナに聞いてみた。


「セリナさん、なんで俺がこの国の人ではないと分かったんだ?」


「ああ、それはね右腕にこの紋章がなかったからよ」


 そう言うと彼女は、服の袖を拭い紋章を見せる。朱色で描かれた鳳凰だろうか。


「この紋章は、何が書かれているの?」


「鳳凰よ。さっき、螺旋階段が上がる前に鳳凰のモニュメントが飾ってあったでしょう。この国のシンボルなの」


 俺は彼女の話に納得し頷く。


「この国は、初めてという事はまだ知らないことばかりだろう。今日はもう夜遅い。ここに泊まっていきなさい。それから此れも何かの縁だセリナに街を紹介してもらうといい」


「ち、父上。私の仕事は、困っている人を王宮にお連れすることであって街の紹介までする義務はありません」


 焦りの表情を見せながら言う。


「いつもなら、それでもよかったのだが。今回は特別に。わしは忙しくて街の紹介までしてやれん。セリナよ頼んだぞ」


 普段は王様が紹介をしているみたいだった。


「わかりました、父上」


 納得はしていない様子のセリナだったが、渋々了承する。こちらを見るやいなや。


「二斗! 行くわよ」


 いつもより語気を強く感じる。(怒ってるな、あまり突っかからないようにしないと)


「セリナさん、待ってよ」


 早足で歩く彼女を追いかける。


ーー

 王室から出ると螺旋階段を降り、何個もある扉の中から一つの扉に向かう。


「ここが、あなたの部屋よ」


 広々とした空間には、大きなベッドが一つあった。


「私は別の部屋だから。お風呂も使っていいわ。共同だから、私が先に入りたいから後から入るように。それじゃあ」


 彼女は、扉を閉め自分の部屋へと行く。

 俺はベッドの上でうつ伏せになる。

 わからない事だらけだな。でも、かわいいセリナさんと一緒に居られる。異世界っていいなぁ。明日は街の紹介もしてくれるみたいだし、楽しみだな。そうだ、風呂に入るんだった。俺はセリナさんのことになると夢中になってしまっていた。


「えーと、風呂はどこにあるんですか?」


 場所を聞き忘れてしまっていたので、周りにいた使用人に聞いてみることに。


「お風呂でしたら、そちらの奥にございます。」


 どうやら、王室の外庭にあるようだ。


「そういえば、王女様はお風呂から出られましたか?」


「ええ、セリナ様ならさっきお部屋へともどっていくの見ましたわ」


「ありがとうございます」


 軽くお辞儀をして、その場から離れた。


ーー


 ここだな。まさか風呂に入れるとは思ってもみなかった。セリナさんに見つけてもらわなければ一日中外にいたんだろうな。俺は、黒色の上下のジャージを脱ぎ、その他着ている物を脱ぐ。使用人の人はもうセリナさんは出たって言ってたけど、一応確認しておこう。


「セリナさーん、いますか?」


 少し待ってみたものの返事はない。


「入りますよ」


 中に入ってみると露天風呂になっていた。外の景色が見れるなんて、なんて羨ましいんだ頭と身体を洗い、湯船へと腰をかける。

 はぁ癒されるなー。露天風呂に入るのはいつぶりだろうか。心身ともに疲れが取れていくように感じた。


 さて、明日に備えて早めに寝ることにするか。眠たくはなかったのだが、ベットの布団が気持ちよくてすぐ寝てしまった。

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