第3話 王女

「何にやついてるのよ。おかしな人ね」


 こちらを冷淡な目で睨み付けている。青みがかった瞳が印象的でギラリと凝視している。セリナさんは見た目すごくタイプだけど性格きつそうだな。ふと自分の中での彼女の理想とはかけ離れてしまった。


「いや、なにも......。それでさ、セリナさんはどうしてここに?」


(ここはとりあえず話題を振って、話を替えよう)


昔っから責められるのが苦手で、打たれ弱かったっけ。


「私? 私は貴方みたいな、お金持ってなさそうな人を一定期間王宮で預かるの。因みに私ここの王女なのよ」


 彼女は俺の目の前でクルリと回って見せる。銀髪が空を舞いて美しく波打つ。膝丈まであるローブを見て、短かったらなと欲望のままに思った。もしもミニスカートだったら見えるか見えないかの葛藤が起きるようなものを。

 というよりお金持ってないことなんでわかるの。もしかして、見た目で分かったりするの。霊能者なの。いてもおかしくはないが.......


「つまりグランド王国の王女さんということでよろしんですかな?」


 シュナイダーさんからセリナ王女の事は聞いていたが、まさかお目にかかれるとは思っても見なかった。王女が一人で町ぶらぶらしていて大丈夫なのだろうか。どんだけ治安いいんだよここ。


「そうだと、言っているでしょう! 頭悪いわね、ニート君?」


 彼女は頭ごなしに指を突きつけてくる。

 なんで疑問符ついちゃってるの。しかも呼び方がニートになってるんですが。やっと、名前で呼んでくれる美少女を見つけたと思ったのに。俺はがっくりと腰を落とした。


「呼び方変わっていますがあえて触れないでおきまフリスキー。ってのは冗談です。お金がないのは、事実です」


 俺は落ち込みながら軽く頷く。


「そう。じゃあしょうがないわね。今から王宮まで案内してあげるわ。付いて来なさい」


 そういうと彼女は透き通った白い手を指し出す。

 俺はその動作を見て戸惑っていると。


「ニート君がはぐれたら、困るからわ・た・し・が。だから手つないでくれる?」


 上目遣いでこちらをみつめる。目尻が少し赤くなっているのを見て取れる。


(めちゃくちゃかわいいんですけど。これが俗にいうツンデレキャラなのか?でも、でれの回数少ないから、ツンツンツンツンデレだけどな。)


「ああ」


 そっけない返事をしているが内心緊張しているだけだ。。女の子と手を繋いだのは、たしか中学以来だったような.......


応援練習で隣の子がすごく嫌そうだったけど。俺だって別に繋ぎたかったわけではないんだが。そしてつなぎ終わった後こちらを怪訝の顔で見て......やめだ、やめ。危うくトラウマで死にそうだったわ。手に汗を掻いているのが自分でもわかる。さっきまでカリカリに乾燥していたはずなのに。ごめん、セリナさん。服で汗を一気に拭い、決死の覚悟でセリナさんと手をつないだ。


「よし、それじゃあいこっか!」


 彼女は手汗のことは気にしていないみたいだった。無事繋ぎ終えた俺は心底ほっとしている。


(ふぅ、良かった。大丈夫だったみたいだ。)


「ニート君はあそこで何してたの?」


 首を少し傾けきょとんとしたような表情で聞いてきた。


「シュナイダーさんから地図をもらって、クエスト受付まで行こうとしてたんだけど途中で道に迷ってしまって。それで日差しが強いし日陰が出来る路地で休憩してた」


 これまでの経緯をジェスチャーを交えて淡々と話す。彼女はうんうんと頷いている。


「休憩していたら、いつのまにか寝てしまっていたということね。道に迷うなんてまぬけね」


「間抜けですいません。地図がわかりずらかったのが否めないがな」


「あら自分を正当化するのは良くないわ。人に尋ねるとかやりようはいくらでもあったでしょうに」


俺の意見を彼女はバッサリと切り落とした。

 吐き捨てるように言った言葉に終始無言のまま俯いていた。


(確かに間抜けなわけだが、人とかかわることを疎かにしていたということもあり、結構精神的ダメージが。)


「ここ。グランド共和国については、何か聞いてる?」


沈黙を破ったのは彼女だった。さっきのコメントに悪ぶれる様子はないことから彼女は素で言うんだなと思った。


「お金がGCっていう通貨だとは聞いてる。後はクエストをうけて、お金を稼ぐってこと」


溜息をついた彼女を見て、的を得ていなかった回答だと分かった。


「お金のことしか知らないのね。まぁいいわ。グランド王国は、私の父が主権として成り立っている国なの。GCグランドコインはこの国でしかつかえない通貨だからほかの国に行くときには、気をつけてね」


「わかった、覚えておくよ」


 路地を抜けて大通りに面した場所へと歩いていく。街灯がたくさんあるので、明るい。「ホーホー」鳥のの鳴き声が家の屋根から聞こえる。


「着いたわ」


 ようやく王宮に着いたようだ。立派な屋敷といった所だ。

 彼女は目的の場所に着き指を差す。目の前には巨大な木製の門が聳え立っていた。門の両側には、白銀の鎧を着て片手には槍を持っている。

 守護兵が一人ずつ立っていた。王女様の帰りを待っていたのだろう。


「少し待ってて」


 そう言うと、守護兵に近づき何か話している。離れているためよく聞こえない。


「ごめん、待たせたわね。さぁ入って」


 すると、巨大な門がキュルキュルと音を立てながら開く。先ほどの守護兵の方達が手動で機械を回している。お疲れ様ですとは口には出さないものの軽くお辞儀をして中へと入る。


「いや、いいけど。ありがとう」


 俺は彼女に迷惑をかけてばかりだ。お役に立てる日が来るといいんだけど。彼女は後ろを振り向いて。


「お礼を言われるような事はしてないわ。私がしたいことをしてるだけ。お礼なら、自由に行動させてもらっいる私の父にしてね。」


 彼女の凛とした表情に遂恥かしくて目を反らしてしまう。

 足取り軽やかに王宮の中へと進んでいく。

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