評価されると死ぬ

ちびまるフォイ

願いを叶えたくば投稿しろ

「フフフ、私はカクヨム悪魔……なんでも願い事をかなえてやろう」


「なんでもだと!? それじゃ大人気作家になりたい!」


「よかろう。ただし願いを条件がある」


「な、なんだ……? 一生童貞とかか?」


「これから毎日小説を書くことだ。それが100作になったら願いをかなえよう。

 ただし、★が10000以上たまったら、書き手の命をいただく」


「乗った!!」


即答した。作品の合計★数が1万を超えることなんて考えられない。

それより先に、投稿作品数が増えて願いはかなう。


「でも、どうしてそんなことを?」


「私は作品が読みたいのだ。人間が命を削って書いた作品ほど面白いものはない」


そう言って悪魔は消えていった。

その日から、怒涛の投稿ラッシュが日常になった。


あっという間に100作を突破すると悪魔がまたやってきた。


「100作突破したようだな」


「さぁ願いを叶えてくれ! 合計★数は1万以下だぞ! 死ぬこともない!」


「……これじゃダメだ」


「え?」


悪魔は投稿した100作をざっと見てため息をついた。


「どれもこれも同じじゃないか。同じ展開、同じ題材、同じキャラ。

 内容も100文字にも満たない。これは作品とは呼べない」


「み、短くたって面白いものはあるだろう!?」


「私はお前のつぶやきやら日記やらを読みたいのではない。

 最初に言った通り、命を削って書いた作品が読みたいのだ」


「く、くそ……」


"テキトーな作品を大量投稿"作戦は失敗に終わった。

しょうがないので、大人数が入れる部屋を借りて執筆作業を進めることに。


評価されないポイントとしては

「後味の悪い話にする」

「投稿は深夜帯にする」の2つ。


ハッピーエンドだとかエッチな展開だとかをうっかり入れようものなら

思春期の盛った少年少女が★で評価しかねない。危険だ。


そして、草木も眠る時間帯にこっそり投稿する。

誰にも見られないままそっと新着小説から姿を消せば評価はされない。


もちろん、近況ノートなどというのも危険だ。

書けば書くほど読者の距離が縮まって「お情け」で評価されかねない。


「さぁ、ばんばん作るぞ! 休みなんてナシだ!」


 ・

 ・

 ・


気が付けばもう90作目。


「フフフ……順調なようだな。欠かさず投稿しているのに疲れもなさそうだ」


「悪魔、覚えているな? 100作いけば願いをかなえるんだろ?」


「当然だ。うまくいけばの話だがな……」


悪魔の含みのある笑いは気になったものの、計画は順調だった。

95作目を投稿するまでは。


>読みやすくて面白い!

>バッドエンドだけど救いがある!

>なんかおもしろい!


>★840



「な、なんだ!? なにがどうなってる!?」


95作目『メンヘラ彼女をぶっ殺す方法とそれに伴う異世界構築』が

まさかまさかの大人気になっていた。


「なんでこんなことに!? あえて埋もれやすい異世界ジャンルにしたのに!」


慌てて原因を探してみると、ほかのユーザーからの推薦だった。

別のユーザーの作品『カクヨムの隠れた名作スコップし隊』が

俺の作品を見つけてしまったがために評価されてしまった。


すぐに作品を削除したが、とっくに手遅れの状況になっていた。


「ダメだ! 作品を削除してもフォロワーが増えたせいで星が上がっていく!」


95作目から飛び火した人気は過去作にも燃え移り、評価はどんどん累積していく。

作品を削除すればするほどゴールは遠ざかり、人気は感染していく。


「そうだ!! ファンが離れる作品を書いて見限ってもらおう!」


悪口を書きまくった内容や、なんのメッセージもない毒のあるエッセイ。

読めば読むほど不快値を貯めるような小説を書きまくった。


>痛烈な批判! でもわかる!

>○○先生のいうとおり!


やっぱり星は貯まっていく。


「これもダメなのか!! すでに色眼鏡に汚染されている!」


今の状況では俺が「うんこ」だけ書いたものを投稿しても評価されるだろう。

相手が勝手にいい点を見つけて評価してしまう。


★9995


★9996



「あ、ああ……もう……」



★9997


★9998



★9999



★10000



ついに作品の合計★数は契約の1万を超えた……。





しばらくして、俺はWEB小説発の大人気作家としてインタビューを受けていた。


「今、中高生に大人気のライトノベル作家になったお気持ちは?」


「素直に嬉しいです。一時は本当に死ぬかと思いました」


「ずばり、大人気作家になったコツみたいなものは?」


「ないですね。毎日コツコツ投稿していた基礎が活きて今に至るんだと思います」


「なるほど、さすがです! 謙虚なんですね! 次回作も期待してます!」


長年の夢であった大人気作家への仲間入りができた。

今では毎日新作に連載小説と忙しい毎日だ。



インタビューを終えて、部屋という名の事務所に戻る。


「さぁ、お前ら! 休んでいる時間はないぞ!

 前に過労死したやつはヘタレだっただけだ!

 お前らの作品を、俺というビッグネームを使って出せること光栄に思え!!」


★数が1万を超えた日、ゴーストライターの一人が過労死した。

その後100作を突破して俺の願いはかなった。


今では順風満帆な日々を過ごしている。




「ど、どっちが悪魔だよこれ……」


悪魔は人間を見てドン引きした。

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