第7話 彼女の正体

目の前が一瞬でまっ白になった。俺は地面にひざ蹴りをするように崩れ落ちる。


「そんな…。あんまりじゃないか…。これからだったんだ。娘は今年小学校に上がるし、妻も二人目を身ごもっているんだ…。俺がいなくなったら、あいつらはどうなるんだ…」

目が熱くなり涙がこぼれる。


「これからだったんだ…」

「貴方が亡くなった後の様子」

女は再び腕を振るう。水面の画面が切り替わり、憔悴しきった理沙が、通夜で喪主を務めている姿が映し出される。状況が分からない玲子は、見慣れない母の姿と、沈んだ空気に動揺をしている。


「あぁ!理沙!玲子!」

映った最愛の家族に向かって、水面に飛び込む。

しかし、水の冷たさしか感じない。そして、飛びこんだ途端に二人の姿は消えしまった。二人を探すように、俺は水を搔くが見つからなかった。しばらくの間そうしていたが、疲れを覚え、岸辺に戻る。膝を抱えながら俺は泣いていた。


そんな俺に、ベラドンナは不思議そう尋ねる。

「なぜ、そこまで悲しむの?」

「当然だろう?愛する妻と娘に、もう二度と会えないんだ」

「生と死は同一。ただの現象よ。あなたがそこまで悲しむ理由は分からない」

「それでも身を裂かれるようなんだ」

「貴方達はただの人間と言う種にすぎない。貴方と彼らの違いって何なのかしら?」

「想いの違いだろう」

「ふーん…。貴方は、私に人間の素晴らしさを説明できるのかしら?」

「どういうことだ?」

「輪廻に還す前に、話をするのも悪くないわよね。いらっしゃいな。退屈していたのよ」


女はそう告げ、廃墟に戻っていく。

「待ってくれ。貴女は一体何者なんだ?」

女は振り返りもせず、背中越しに答える。



「私はベラドンナ。輪廻の渦への入り口を管理する者。そして、死と忘却を司る神」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る