第3話 仄暗い光明に誘われて
状況をきちんと理解しよう。
現在、何者かによって一切の光源が排除された、ひどく広大な空間に拘束されている。服は脱がされ全裸。水や食事は与えられていない。
犯人の意図が分からない。
俺の身柄を拘束し、外国にさらった?何のために?そして、このあまりにも広い施設を持っていることを考えると、相当な資産家なのだろう。ただの中小企業のサラリーマンの俺に、そんな知人はいないし、そんな人間に恨まれることをした覚えもない。
少し、昨日を振り返ってみよう。
昨日は、夜11時過ぎに家に戻った。
夕飯を食べ、眠る前の玲子と妻の理沙と少し話して、3時過ぎにベットに入ったはずだ。いつもと変わらない日常だったはず。
俺は何らかの事件に巻き込まれたのだろうか?
家で起こった犯行ならば、理沙と玲子はどうなった?! これはまずい。彼女たちが攫われているのならば、探さないと!
「理沙ああああ!!無事かあああ!!玲子おおおお!!パパの声が聞こえるかああ!!」
俺の声は木霊となり響いた。なんだここは?木霊になる部屋なんて聞いたことがない。事態は俺の想像以上にまずいようだ。妻と娘は無事なんだろうか。
「犯人!聞いているんだろう!一体なにが目的だ!姿を見せろ!」
そう怒鳴ってみても、声はむなしく響くだけだった。
何度となくそれを繰り返した。歩き続け、時には走ってみて、喚き散らした。
それ疲れ果て、倒れこんだ。
いつもならば、何かしらが存在するはずの天井は、限りなく、果てしなく、まるで黒く染め上げられた空のようだった。
「ふざけんなよ」と呟き、寝がえりをうった先に、砂粒ほどのわずかな光明が見えた。
俺は弾かれたように立ち上がり、そこに向かって走り出した。
砂粒ほどの大きさだったものが、やがてテニスボール大になり、それが筒状のチューブとなり、いつしか道になっていた。
その道をしばらく歩いていると、風が抜ける音が聞こえ始めた。
先のほうに、自立する扉が見え始めてくる。その扉のもとにたどり着くと、少し開いており、その先から風が抜けていた。
俺は、迷わず扉を開けた。扉の先は、仄暗い暗闇が広がっていた。
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