第七話

 レオンはその間に救出作戦を練り上げていたが、司令室で聞かされた『帝国』陣営のそれとほとんど同じだった。


 その作戦内容は、


 『帝国』軍と『世界教』教会に協力という形で参戦した、『大』『公』同盟の連合軍による救出部隊を結成し、人質奪還作戦を行なう。


 その一方で、三国連合の『神機』が、戦闘を強制させられている『共和国』の『神機』と、陽動のためになるべく戦闘を長引かせる、


 というものだった。


「そこであなたにも頼みたい、というわけです」

「確かに、相手へバレずに一芝居打つには妥当な人選ですね」


 司令室のモニターのリストには、レオンの他に『帝国』と『大連合』のエース格の名前が載っていた。

 『帝国』は『シュトゥルム』のオリビエ・ライトルと『聖女』バネッサ・ライトル組。

 『大連合』は東方面軍のエース『ライダー1』のニーナ・ウッズと『聖女』アリエラ・ゴメス組がピックアップされていた。


「引き受けましょう」


 レオンは二つ返事で了承し、ブリュンヒルトはそれに感謝の意を伝えた。


 キャクストン公と大公の許可も降り、そこまではトントン拍子に進んだのだが、


「すいません、お父様……、レオンさん……」


 今朝から具合の悪かったセレナが発熱して寝込んでしまった。


「こればっかりは仕方ないよ」

「うむ。その通りだ」


 ひたいれタオルを乗せ、うんうん言っているセレナへ、レオンとキャクストン公はそう優しい言葉をかける。


「さて、どうしたものか……」


 セレナの部屋から廊下に出た、キャクストン公とレオンは頭を悩ませていた。


 代理で他の『聖女』が乗る事も、起動プロセスを行なえば不可能ではないが、搭乗経験がある『聖女』でなければならない、という条件がある。

 だが、それでもはじかれる事もあり、手配にはかなり時間がかかることが多い。


「可能性があるとすれば、エレアノール様だろうか。レオン君」

「でしょうね。流石にマリーを乗せるわけにはいきませんし」

「ああ。殺し合いでないとはいえ、ね」


 その結論に至ったところで、レオンはエレアノールへ伺いを立てようと、彼女の端末につなごうとしたところで、


「申し訳ないですけれど、それは無理ですわよ」


 本人が護衛を引き連れて現われた。彼女の傍らにいるはずのアメリアは、何故か今は不在だった。


「無理、というと?」

「ええ。私、どうしてもアメリアさん以外では、『神機』を動かせませんの」


 エレアノールは、アメリアと出会った一件の影響で、実の兄と乗っても起動出来ない程、パイロットを信用出来なくなっている、ということを説明した。


「……なるほど」

「本来なら、私とアメリアさんが『グウィール』で、というのが道理ですけれど、アメリアさん、さっきまた倒れてしまいましたの」


 怒りを通り越して、エレアノールは完全に呆れた様子で額を押えた。


 その理由は、エレアノールを護るため、といって、アメリアは3日間連続で徹夜してしまい、協議終了後、また同じ様に倒れ、軍医が駆けつける事態となった。


 ちなみに彼女は現在、エレアノールのゲストルームで安静にしているが、主人にこってりしぼられた上に、大嫌い、とまで言われてしまい大いに落ち込んでいた。


「本当に困った人ですの……」

「まあその、彼女をあまり責めないであげて下さいね」


 深々とため息を吐いたエレアノールに、アメリアの気持ちは分かるレオンは、若干の苦笑混じりにそう頼んだ。


 善処ぜんしよ致しますわね、と、エレアノールは返してから、なんだかんだで心配で真っ直ぐゲストルームへと向かって行った。


「ふむ、こうなっては致し方あるまい。私から大公陛下へお伺いを立ておくよ」

「公爵様。こちらにおいでになるまで、どのくらいかかりますか」

「短くて明日の昼だろう。知っての通り、北フォレストランド国境が忙しいからね」

「なるほど……」


 ここまでままならないとあっては、流石のレオンでも焦りを見せる。


 とはいえ、打てる手はそれだけしかなく、2人は執務室へと向かう。


「どうやら、わたしがいくしかないようだな」


 その扉の前で、腕組みをして待っていたマリーが、えない顔をする2人にそう言った。


「いやいやマリー。流石に君を乗せるわけにはいかないんだ」

「その気持ちだけは受け取っておきますよ、『聖女』様」


 当然ながら、レオンとキャクストン公はその申し出をやんわり断るが、


「ぜいたくなことを、いっているばあいではないんだろう?」

「確かにそうだけど、いろいろ問題があるんだよ」

「かげむしゃをつかって、せれなおねーさまがのっていることにしたらいい」


 マリーは自信満々でなかなかに危険な事を口走った。



 前々から、マリーの見かけによらない言動には驚かされていたが、レオンはここまでぶっ飛んだ事を言うとは思わず、キャクストン公と共にあんぐりしている。


「そんなやりかた、どこで覚えたんだい?」

「『おうこく』でんとうのいんぺいこうさくだ。やるひとのしんようがあるほど、こうかがたかいぞ」

「ええ……」



 涼しい顔でそんな事を言うマリーは、レオンに抱っこを要求してきた。


「だそうだ。どうするかね、レオン君」

「まあ、時間はないですし、それしかないでしょう」

「しかしな……」

「まあ、僕が勝手にやったことにして下さい。不名誉があるぐらいで僕はちょうどですから」


 強く躊躇ためらうキャクストン公に、レオンは自虐的に笑ってそう言い、マリーをひょいと抱きかかえると、『神機』の格納庫へと向かった。

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