第七話
さらに4時間後、空が白んでいく中、『帝国』『レプリカ』部隊76機と、待ち構えていた『大連合』西北領主力『レプリカ』部隊48機が衝突した。
全体的に山がちな西北領では、その全域で『レプリカ』が通れる道が限られる。その上、東部は池沼地帯であるがため、さらに道が限られ、『帝国』軍の補給路がかなり間延びしていた。
そこで『大連合』軍は、道路の左右にある山の谷間に部隊を隠し、『帝国』軍機の小集団が通過した所でサイドから奇襲をかけ、補給路を分断して
『帝国』軍は『大連合』軍同様、ジャミングで意思疎通が出来ないものの、侵攻速度を緩めつつも『大連合』軍を押し込んではいた。
だが今までよりも、確実に被害は大きくなっていた。
練度が高い『大連合』軍の連携に苦しめられ、『帝国』軍『レプリカ』部隊は戦闘開始1時間で58機まで削られていた。
しかし、彼らは険しい山岳地帯を突破して、西北領主幹基地のある盆地へと侵入した。
「……さて。皆さん、行きますよ」
基地から20キロの距離に構築した陣地にいたレイラは、スピーカーで他のパイロットに呼びかける。
彼らからの力強い鬨の声が返ってくると、レイラは出撃の信号弾を打ち上げた。
残り40機となった『大連合』軍は、その半分を支援砲撃専用に回し、レイラ機を含んだもう半分を、実力者で構成された遊撃部隊にした。
「畜生! 何で連中はあんなに動けるんだ!」
「俺たちと同じじゃないのか!?」
「スピーカー使ってんだろ?」
「いや、あいつら何も言っ――、ぐああああっ!」
単調な動きしか出来ない『帝国』軍を、『大連合』遊撃部隊はスピーカーとマイクによる会話さえ交わさず、かつてのレオンと同じ近接戦闘スタイルで翻弄する。
レイラ参戦後は、『帝国』軍の被害はさらに増加し、増援を後ろからいくら投入しても、それ以上に撃破されて残り51機になった。
業を煮やした『帝国』側の司令官は、ついに『神機』の投入に踏み切った。
敵側の陣地の前に陣取っていた緑色の機体は、その命令を受け、落雷のような音をたてながら地面を揺らして進む。
山の上から偵察していた小隊が、『神機』の発見を意味する、赤色の信号弾を打ち上げた。
「来ましたか……」
まもなく、山体を破壊しながら、『帝国』軍の『神機』が盆地へと侵入した。
どの方向から見ても柊の葉の様に見える、長い八面体が組み合わさった緑色のボディーは、下部に脚が四本付いている。
頭部の中央に帯を巻き付けた様な、黒いカメラの部分があり、その上から三角錐型の角が上方に付きだしている。
頭の少し下辺りから生える、2本の腕の先には右に大口径の実弾砲が装備され、左にはこちらも大口径のレーザー砲が装備されていた。
「間に合い、ませんでしたか……」
『公国』軍が間に合わなかった場合の作戦であるプランB通り、『大連合』軍の遊撃隊と砲撃支援隊のパイロットは、『神機』の前にいる『レプリカ』に集中砲撃を加えて蹴散らす。
敵機の群れに空白が出来たのを見たレイラは、シールドを捨てて敵『神機』へ向けて一直線に突き進み始めた。
作戦では、レイラ機が単独で突っ込むはずだったが、
「――ッ!? 何をやっているんですか! あなたたちは下がりなさい!」
特にレイラを慕っていたパイロット2名が、命令を無視してレイラ機の後に続き、左右からレイラの突貫を阻もうとする敵機に砲撃を加える。
「小将を1人で逝かせる訳にはいかないっす」
「俺たちは、あなたのおかげで更生出来たんです。恩を返させて下さいよ」
2人はスピーカーでレイラにそう言い、対『神機』砲を敵『神機』の脚1本の根元に放った。
それは正確に間接部に当たり、突き進んでくる敵『神機』の動きが明らかに鈍った。
直後、敵『神機』の実弾砲が、後ろの2機に向かって放たれた。なんとか回避して直撃は免れたが、2機とも後方に吹き飛ばされて大破した。
「喰らえ……ッ!」
レイラは、2人が損傷させた砲とは逆の脚の下でドリフトするように止まり、機体前方下部に装備された対『神機』砲を放とうとした。
「な――っ!?」
しかし、敵『神機』の底面がシャッターのように開いて、大口径の機関砲が現れた。
退避を……ッ!
とっさに後退したものの、時はすでに遅く、高速で放たれた弾は対『神機』砲を破壊し、左脚部を鉄くずに変え、コクピット下のコアを破壊した。
「あッ、ぐ……!」
防弾板によって、弾の貫通はなんとか防がれたが、当たった部分がへこんだせいで、モニターの部品がはじけ飛び、レイラの右目に直撃した。
これまで、ですね……。
主電源を喪失した事で、自動的に非常用電源へと切り替わった。
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