第二話

「L-1下がれ!」


 戦闘態勢に入った2番機のパイロットが叫ぶと同時に、1番機のモニターにロックオン警告が表示された。


 車載コンピューターが自動で判断して、機体がバックしたが、


「うわっ!」


 直後、その機体正面についているカメラが、青年の『レプリカ』に狙撃されて沈黙した。


「何だあの変な装備!?」


 青年が乗る黒い機体の左右には、砲ではなく装甲腕が装備されていた。右腕は機体形状と同じ、滑らかな流線型をしている盾、左腕には超振動ブレードという構成で、マニピュレーターの位置にレーザー式機銃が2つ付いている。


「変わって言われると傷つくなあ」


 至って普通の調子で話しながら、青年は2機に高速で接近する。その車高は『王国』機に比べて2周りほど低い。


「真っ直ぐ来るとか馬鹿か?」


 1番機は後ろに下がりながら、レーザー砲を青年の機体に向けて放つ。それと同時に2番機も実体弾の援護射撃を放つ。


「無策で行くのはね」


 青年の機体は無駄のない挙動で砲撃を回避し、避けるのが難しいものを盾で弾いた。


「化け物かてめえ!?」


「お褒めいただき、ありがとう」


 そうジョークを飛ばすように言いながら、彼は1番機右前に肉薄してその右側の機銃をブレードで切り落とした。

 間髪を入れず、その場で機体を1回転させた青年は、盾で殴って1番機をはじき飛ばした。


「やあお嬢さん、怪我けがはない?」


 腰が抜けて動けない少女にそう訊ねた青年の機体は、彼女を守るように1・2番機の間に立ちふさがる。少女は戸惑ったように、何度か頷(うなず)いて答えた。


「そうか。それを聞いて安心したよ」


「なめてんじゃねえぞ! この傭兵風情が!」


 自分たちを放置して少女と親しげに話す青年に、いらだった1番機のパイロットがカメラ部を狙ってレーザー砲を撃つ。


とはご挨拶だね」


 ちょっとムッとしたように言った青年は、微妙に機体の角度を変えて、分厚い正面装甲でこれを弾く。


「あのマーク、何か見覚えがあるような……?」


 2号機のパイロットは、青年の機体両脚部にあるマークを見て独りごちた。

 そこは本来、国籍識別マークを書くエリアで、彼の自機と手前の1番機には、青い丸が横に2つくっついたものがペイントされている。


「おいL-2! ごちゃごちゃ言ってないで援護しろ!」


 1番機のパイロットがあまりにも大声で叫ぶので、通信が音割れを起こしている。


「その前に秘匿回線に切り替えろ! あっちに筒抜けだろうが!」


 疑問は一旦置いておくことにした2番機のパイロットは、青年の機体に砲の狙いをつけたまま、横に回り込もうと移動を開始した。


「うるさい男はもてないよ?」


 青年は外部スピーカーを使って、1番機のパイロットをからかう。


「黙れええええ!」


 それにカチンときた彼は、レーザー砲をおおざっぱに狙って連発した。


「もちろん短気な男もね!」


 それを難なく盾で防ぎ、青年の機体は1番機に肉薄。すれ違いざまに左の砲を切り落とした。その直後、後ろをさらす格好になった青年の機体へと、2番機は脚部を狙って砲撃を加える。


「おっと危ない」


 青年は即座に機体を反転させ、盾でビームを防ぎつつ前進して、1番機の脚の根元にブレードを突き刺した。それによって1番機は移動もできなくなり、完全に無力化された。


 青年は機体を旋回させて、刺さったブレードを引っこ抜くと、盾を構えつつ2番機に対峙たいじする。


「こ、降参だ! 降参する!」


 青年のあまりにも変態的な機動に、2番機のパイロットは砲を空に向け、ジリジリと後退し始めた。


「うん。それはいい判断だ。特別に1回だけ見逃してあげよう」


 それを見た青年はそう言って戦闘態勢を解き、回れ右をしてへたり込んでいる少女の方へと向かった。

 2番機のパイロットは、青年の機体が自機に背を向けたのを見て、砲撃をアシストより遥かに早く撃てるフルオートモードに切り替えた。


「なーんて、なあっ!?」


 不意打ちをしようとしたまでは良かったのだが、


「1回だけって言ったよね?」


 それは青年に完全に読まれていて、照準が合ったときには、その機体は2番機と向き合う形になっていた。


 ビームを盾で防ぐと共に、青年は機体上部のミサイル発射管から、大量のミサイルを飛ばした。


「どわああああ!」


 2番機はカメラと兵装を全部破壊され、こちらも無力化されてしまった。


「君は『白旗』も揚げてないのに、油断するわけがないだろう?」


「……恐れ入りました」


 2番機のパイロットは潔くあきらめて、白旗信号を青年の機体に送った。

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