第一章 『神機』:護りし者
第一話
「ちょっとのんびりし過ぎたかな」
『レプリカ』のコクピットに座る、ヘルメットを被ったパイロットの青年は、そうつぶやいて前方のモニターに表示されていたウィンドウを閉じた。
その前後左右のモニターには、雨風による浸食でできた柱状の奇岩がいくつも林立する様子が映し出されている。
手元のコンソールのスイッチを操作し、スタンバイモードから行動モードに切り替え、青年は座席の左右にある操縦桿のレバーを握った。
「おや?」
いざ発進、というところで、『王国』所属の『レプリカ』2機がレーダーに引っかかり、ブザーとともにサイドモニターに位置情報が表示された。
「ヒャッハー! 待ちやがれええええ!」
全速力で逃げるバギーを、機体後部に『L-1』と書かれた『レプリカ』のパイロットは、外部スピーカーから奇声を垂れ流しつつ、バギーのすぐ後ろに向けて威嚇射撃をした。
短くなった5角形の鉛筆を巨大化したような形状のボディーで、その下部には装甲で覆われた縦長の脚が付いている。その裏面は、幅の広い無限軌道になっていた。
上半分2面の左には、対機動戦車用のレーザーと実体弾併用の砲が、右にはレーザー式機銃がそれぞれ装備され、前方の下部にはマニピュレーターがついていた。
「おい馬鹿! 当たったらどうすんだ!」
その後ろをついて行く、『L-2』と書かれた機体のパイロットが、1番機のパイロットに無線を飛ばして
「第1世代じゃあるまいし、当たりゃしねえよ!」
1番機のパイロットはそれを無視して、再び同じように威嚇射撃を行った。
彼らの『レプリカ』は第2世代機で、カタログスペックではあるが、命中率が約99%の『神機』に匹敵するほど射撃管制装置の精度は高い。
「そういう問題じゃねえよ!」
「あ? じゃ、女だから撃つなってか?」
「違う」
1番機の前を走るバギーを運転しているのは、10代後半ほどの年齢の少女だった。その上着は地味な白いブラウスだが、下は真っ白な下着のみというあられもない服装をしている。
「よく考えろ、あのバギーは何で動くと思う?」
「旧式だし、普通の燃料だろ」
「燃料が切れたらどうなる?」
「停ま――、あ、そうか」
やっと理解が追いついた1番機のパイロットは、外部スピーカーを起動し、
「おい女! 燃料が切れたら結局一緒だ! おとなしく捕まりな!」
言わなくても分かることを、やたら偉そうに叫んだ。
「……」
それを受けた少女は、燃料が残りわずかなことを示すメーターを見ただけで、速度を緩める気配は全くない。
「ちっ! これでも食らえ!」
無視されたことに腹が立った1番機は、バギーの進路を狙って実体弾を撃ち込んだ。
それは着弾と同時に、暴徒鎮圧用の催涙ガスをまき散らす予定だったが、弾からは煙がチョロッと一筋出ただけで、何の意味もなかった。
「何でだ!」
1番機のパイロットは頭に血が上り、自分の膝をぶっ叩いた。
「急がば回れ、ってことなんじゃないか?」
と2番機のパイロットが言うと、ちょうどバギーの燃料が切れて、速度が急速に落ち始めた。
「……っ」
完全に動かなくなると同時に、少女はバギーを乗り捨てて駆けだした。
「どうやらその通りらしいなぁ!」
1番機のパイロットは、息を切らせて走る彼女の後を、ゆっくりと追いかけて泳がせる。
「なあ、あの女、良い身体してるとは思わねえか?」
と、1番機のパイロットは、下品な笑みを浮かべてそう言い、カメラをズームにして生脚をなめるように眺める。
「……お前まさか、一発ヤろう、とか考えてないだろうな?」
「おう。よく分かったな」
少しもためらいを感じられない口ぶりで、そう1番機のパイロットは答えつつ、マニピュレーターで少女の脚を引っかけて転ばせた。
「さすがに軍規違反はまずいだろ!」
「お前は真面目過ぎるんだよ」
ばれなきゃ犯罪じゃねえ、と言った彼は、うつ伏せに倒れる少女を、マニピュレーターを使ってあお向けにした。
「いやぁ……っ」
「おい!」
2番機のパイロットの制止を無視し、彼はあえぐ少女の腕を押さえつけて、その服をはぎ取ろうとする。そのとき、
「やれやれ。困った人だね、君は」
あきれたような青年の声が、通信に割り込んでくると同時に、マニピュレーターの根元がピンポイントで破壊され、それが全く動かせなくなった。
「なっ? どこだ!」
1番機のパイロットがあたりを見回すも、撃ってきたきた相手は見えず、レーダーにも反応がない。
「こっちさ」
その声とともに1番機の右前にある岩の陰から、赤い斜線のマークがある『レプリカ』が現れた。
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