第16話


「文化祭なんだけど。みんなでバンド、やらない?」


 ミーハーで目立ちたがり屋な亜美の思いつきに私は上手く乗ることができなかった。音楽なんてやったこともなかったし、歌だって別に上手くない。はしゃぐ亜美と千恵に囲まれてぎこちなく頷くと、「じゃあ決まりね」と亜美は笑う。

 その日の帰路、思ったことを言えない性格を後悔したのは、言うまでもなかった。


 次の日に亜美が「お兄ちゃんに借りたの」と持ってきたレスポールのギターは重たくて、長時間持っていると左肩がじんじんと鈍く傷んだ。

 亜美はベースで、千恵がドラム。私はギターで、スリーピースの三人構成。千恵がコピーして持ってきた3つの楽譜はどれも愛や恋を歌った安っぽいラブソングばかりだった。カナハはきっとこんな音楽、聞きたいと思ったことすらないんだろうと思う。

 カースト上位の権利なのか、私たちのバンドは文化祭のステージのトリを飾ることになった。3ヶ月後のライブに向けて週三回の練習が始まったけれど、私の心は不安でいっぱいだった。行動力はあっても粘りのない亜美や千恵の演奏が上手くなるとはとても思えない。せめて自分の演奏だけでもなんとかしなければと私は焦りながら、ギターのネックを握りしめた。


 テレビで見るバンドマンみたいにかっこいい演奏ができるようになるまでにはずいぶん時間がかかるということを知ったのは、練習を始めてすぐのことだ。だけど毎日練習をつづけていると、少しずつリフを弾けるようになっていくのが分かって嬉しかった。新しいコードに指が届くたび、難しいソロの一部分を完成させるたび、カナハの笑った顔が頭に浮かんだ。


 ライブが成功したら、舞台が盛り上がったら、カッコよくギターの演奏ができたら、カナハは喜んでくれるだろうか。私のことをもう一度、素敵だと思ってくれるだろうか。そんな都合のいい考えをどうしても頭から消すことができない。

 亜美や千恵に驚かれるくらい、私はギターに夢中になった。ご飯を食べるのもトイレに行くのも、血豆がつぶれる痛みすらも忘れて。

 アンプから出る音が気持ちいいとか、エフェクターの音色がおもしろいとか、理由はいろいろあるけれど。一番の理由はたぶんカナハだった。カナハの笑顔をもう一度見れるなら何だってできる気がするなんて思う私は、つくづくあの子にハマってる。


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