第14話


 カナハが学校を休んだ本当の理由を知ったのは夜だった。痛みがちな髪の毛の毛先に洗い流さないトリートメントをなじませていると、めずらしく茜から電話がかかってきた。焦っているのか、いつもよりも早口な声は大きくて、思わず通話口から耳を離した。


「マリカ、マズイことになったかも」

「どうしたの」

「マリカの友だちの清水奏葉ちゃん。今日の放課後、あたしの学校に来たよ。」


 身の回りの音。洗濯機の回る音や、テレビの中で芸人が喋る声、部屋の中に置いている小さな加湿器の音が消えて、私の体の全神経が私と茜を隔てている耳に集中した。


「カナハちゃん、あたしに会いに来た。何か言いたいことがあるみたいだった。でも、茜が私だってことがわかって、すごくびっくりしてた。いくらメイクしてるって言ったって、あたしとマリカじゃ背丈が全然違うから」

「え?」

「ごめん、マリカ。ごまかせなくて、本当のこと言っちゃった。カナハちゃんが毎日メールしてる茜は、あたしじゃなくて、カナハちゃんの後ろの席の、楠瀬マリカだってこと。」


 嘘。

 唾がからからに乾く。息を大きく吸って、気持ちを落ち着けようと努力する。いずれ、自分の口から言いたいと思っていたことを先に知られてしまったことに、ひどく動揺していた。茜に尋ねたいことが多すぎて、考えがまとまらない。


—カナハはどう思ったんだろう。茜が私だったことを、どんな風に受け止めたんだろう。

 「その後、どうなったの」とかすれた声で聞くと、一瞬の沈黙が私と茜の間を支配した。受話器越しのしんする静けさに、胸が波打つ。


「顔真っ青にして帰っちゃった。何度か呼び止めてみたけど、上の空みたいでそのまま。もうさ、正直に打ち明けちゃいなよ。別に悪いことした訳じゃないんだし、流れでつい嘘ついちゃったみたいなものだし、きっとカナハちゃんも分かってくれるよ。マリカ、そうしなよ」


 その後も茜は何か言いつづけていたが、私が何も答えないので怒っていると勘違いしたのか、途中から謝罪の言葉を連ねるようになった。

 私は「ごめん茜、今日はもう寝る」とだけ言い、電話を切った。無機質なツー、ツーという音が耳の奥で鈍く響いている。

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