第13話


 その晩、お母さんが入れてくれた熱い湯に浸かりながら、私はカナハにメールを打った。誰かに今日起きたことを話したかった。智久の気持ちを受け止められなかったことを相談して、許されたかった。

 誰でも良かったわけじゃない。千恵や亜美に言えば、きっと非難されてしまうから。


 気づけば周りに、本音を話すことができる友達がいなかった。

 どんなに毎日仲良く話していたってある日、おはじきみたいに、輪の中から簡単にはじきとばされる。私は、彼女たちの突然豹変する態度や、向けられる言葉が怖かった。嫌われないように、疎まれないように。そんな風に、うまく立ち回る術ばかり身につけて、いつしか人を信用できなくなった私の心の中に立って居るのは、カナハだけだった。どうしてこんなに彼女に固執してしまうのかは良く分からない。惹かれていることだけは、はっきりと分かっていた。

 ヴー、というゆるいバイブ音がした。カナハからのメッセージが一通届いていた。


 茜さんのしたことは、正しかったと思います。

 自分と相手に向き合って、ちゃんと返事をすることができたんですから。

 あんまり自分を責めないでください。

 私は茜さんのそういう優しいところ、好きです。


 最後の一文を読んで、思わず携帯を取り落としそうになってしまった。湯に触れる直前で握りしめる。心臓の鼓動が早いのはきっと、長風呂でのぼせてしまったからだけじゃない。私はカナハのことが、好きなのかもしれないと思った。

 私の手の中で、スマートフォンが再び震えた。

 「少し、妬けました。子どもっぽくて、ごめんなさい」というメッセージが白く光る画面に浮かんでいた。


 そして私はついに、携帯を水没させてしまった。携帯だけじゃなく、自分の身体を湯の中に沈め、小さな声で叫んだ。その叫びを、お母さんにも友達にも、誰にも聞かれたくなかった。今すぐカナハに会いたかった。学校がはじまるまであと13時間も残されているなんて、信じられなかった。


 でも、その日、カナハは学校に来なかった。風邪をこじらせたそうです、と担任の教師は言った。担任も、クラスメイトも、カナハが居ないことなんてたぶん、気にも止めていなかった。私を除けば、誰も。

 前の席にカナハの背中のない一日はつまらなかった。授業中はいつも黒板じゃなくて、前に座るカナハのはねる後毛を見ていた。真剣にノートに目線を落とす真面目な彼女を、かわいらしいと思っていた。

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