第8話
—ああ、もう。
短気な私は少しイライラしながら、軽く息を吸った。亜美たちとプリクラを撮るときに良くするように、カナハの肩に手を回して彼女のほっぺに軽くキスをする。カナハの体が一瞬にして硬くなるのが分かった。
白く光る操作画面に私たちのキス画像が表示されたのを見て、カナハはその場にふらふらとへたり込んだ。おかげで私は、画像の落書きを全て一人でやる羽目になった。少し刺激が強すぎたのかもしれないと反省しながら、私とカナハが並ぶ画像の中に、今日の日付を書き込む。
雲を模ったモコモコのフレームの中に映る私たち。同じようなパンクな格好をしているのに、ちっとも仲がよさそうに見えない。友達じゃないけど、他人でもないクラスメイトの女の子。
私たちの関係に名前をつけるとしたら、一体何になるんだろう。
ふたりの間に少しだけできている、不自然な距離をじっと見つめる。
*
「はい、オゴリ」
「ありがとう、ございます」
親子連れの多い日曜日のフードコートは喧騒に包まれている。イチゴバナナチョコソフト生クリームクレープ、という何が主体かわからない食べ物をカナハに渡してやる。頬の赤みは引いたけれど、まだ目を見て話してくれるつもりはないらしい。
気まずい沈黙がふたりの間に続き、私は淡々とクレープを口に運んだ。クレープの生地の甘さと、ハムの塩っ気が口の中に広がる。
突然、意を決したように、カナハは顔を上げた。
イチゴバナナチョコソフト生クリームクレープの包みを開けて、がぶっと豪快にかぶりつく。ホイップクリームを口の端につけたまま、カナハは切り出した。
「茜さんは、何であたしに付き合ってくれるんですか。今日も、メールも…」
「別に。何となくかな。カナハって、ちょっと変だし、面白いし。」
正直な気持ちを率直に告げると、カナハは傷ついたような瞳で私を見つめた。
「からかってるんですか。茜さんも、あたしをからかうんですか。クラスのみんなみたいに…」
「別に、そういうわけじゃ」
「後ろの席の女の子が」
否定しようとした言葉を、呑み込んで話の続きを待つ。
「最近、後ろの席の女の子が、あたしをからかってくるんです、あたしに興味があるって、嘘ついて。きっと、あたしをからかって楽しんでるんです。あたしが暗くて、うじうじしてて、変だから」
カナハは目線を下にやった。握りしめた拳がかすかに震える。
「もう、そういうの嫌なんです。誰とも関わりたくないのに、ほっといてほしいのに、近寄ってきてほしくないのに。どうして」
今にも泣き出しそうな顔をして唇を噛み締めるカナハに、私はかける言葉を見つけられずに口をつくんだ。私の行動が彼女をここまで追い詰めていたなんて、全然気づいていなかった。
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