第6話


「何となく」

「………」

「うそ。ちょっと最近、清水さんに興味があってさ」


 からかうようにそう言うと、カナハは青かった顔を今度は真っ赤に染めた。

 それが面白くて、私は調子に乗った。素直な反応が返ってくるのが新鮮で、からかいたくなってしまう。


「いっつも何考えてんのかなって、思ってたの。教室で喋ってるとこ、見たことないし。友達とかも居なさそうだし、いっつも一人だし。ミステリアスな感じだよね、清水さんて。でもなんか、思ってたよりずっと、かわいい」


 カナハは顔を上げないまま、身体をふるふると震わせている。最初は照れているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 どうしたのと声をかけると、カナハは低いうめき声を上げながら、いきなり私の肩に触れると、そのまま強い力をかけて思い切り押し倒した。「は」と声を上げる隙もなく、カナハは私の頭に自分の頭を強くぶつけた。重い衝撃で目の前に光の粒子が飛ぶ。

 するとカナハは自分の頭を両手を押さえて、痛い、痛いと苦しみの声を上げる私をその場に放置して去っていってしまった。走る足音がだんだんと遠くなっていく。

 なんなんだ、あの子。頭がおかしいんじゃないのかーそう思ってしまうのも無理はないような、それはあまりにも突飛な出来事だった。


 その晩も、カナハから長文のメールが届いた。時刻は19時ちょうどだった。カナハは大抵、この時間にメールをよこしてくる。私が名前をプロフィールを借りた「茜」は美術部に所属しているから、もしかしたらカナハなりに気を遣っているのかもしれない。

 ベッドに寝転がって、白く光るスマホに目を落とす。書かれていた文章を読んで、私は驚いた。そこには「同級生に怪我をさせてしまった。思わずそのまま逃げてしまったけれど、もし、重傷だったらどうしよう」という幼すぎる悩みが綴られていた。それは紛れもなく、私のことだろうと思った。

 文章の最後にあった泣いている絵文字を見ていると、なんだかお腹の底からおかしみが突き上げてきて、私はお腹をよじって笑った。笑いの涙を流したあと、そのメールには「明日、ちゃんと謝ったほうがいいよ」と簡潔かつ、常識的な返信をしてベッドに入った。不思議と怒りは収まっていた。


 次の日の朝に登校するとすぐに、カナハは私に深く頭を下げた。あまりにも深い謝罪に狼狽して、「いいよいいよ顔あげなよ」と言うと、しばらくしてやっと姿勢を元に戻した。そのとき、カナハのまぶたがほんのりと赤く腫れていることが分かった。この子はもしかしたら、とてもピュアな精神の持ち主なのかもしれないということに、私はようやく思い当たったのだった。

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