第6話

 ついに予定された最後の夜がきてしまった。


 メアリは獲物を求めて遅くまでさまよい歩き、ようやく、池のほとりに幌馬車を止めて野営している親子を見つけた。


 それは身なりのいい上品な婦人と、五歳くらいの息子だった。


「奥さん、こんなところじゃお寒いでしょう。どうぞうちへおいでなさい。お風呂も、ちゃんとした寝床も、食べものもありますよ。坊やに栄養をつけてあげましょう」


 親子は疑わずについてきた。


 この婦人の夫は、西の町へ出稼ぎに行って定職を得た。

 その町で一緒に暮らそうという手紙が来たので、息子を連れて夫のもとへ向かう途中なのだということだった。


 しばしの後、メアリと女と息子の三人は、なごやかに食卓を囲んでいた。


 実に感じのいい親子だった。


 母親はやさしく聡明で善良そのもの、しかもメアリに対して女友達のように気さくに打ち解けてくる。


 息子は小鳥のように陽気だが、たいへん行儀が良く、メアリが食べものを取り分けたり、飲み物を注いでやったりするたび「ありがとう、おばさま」と言った。


 メアリは二人をひとまず寝室に案内した後、地下室へと降りていった。

 そして震える手で鎌をとった。


 さて困ったことになったものだ。


 もしどちらかを生贄にするとして、果たしてどちらの首を刎ねるべきだろう? 母親か、それとも幼い息子か?


「わたしは長いこと子どもがありませんでね。やっと授かったのがこの子なのです」

とは言っていたが、この母親は健康そうだし、まだ次の子どもを産める年齢だ。


 だが、息子を失ったら本当にそうするだろうか? メアリ自身の生活はただひとつの不運によって完膚なきまでに崩壊し、二度と元には戻らなかったではないか。


 さりとて母を殺し、息子を生かしたらどうだろう。この幼い息子が悲しむだろう。

 あるいはこのさき幸薄となり、成長した暁には復讐を誓うことすらありえる。

 それは、息子が死んで母が残った場合も同じことだ。


 どちらか一人を残した場合、残った方はかならずやメアリを殺人者として糾弾し、償いを求めるだろう。

 そうなるのは得策ではない。メアリと、復活した娘の将来のためにもよくない。


 ならば二人同時に始末してしまうという手もある。

 そうすれば取り残されて悲しむものはいなくなる――西の町で二人を待っている、一家の父をのぞいては。

 少なくともこの男は、手を下したのがメアリだとは知る由もないだろう。


 だが、生贄は本来一人で充分なのだ。ただそこに居合わせたからといって、二人目の人間の命まで奪うのはあまりにも酷ではないか。

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