第15話 はじめての情報収集⑥

「色々とありがとう。本当に助かったよ」


 あらかた話を聞き終えたあと、僕はバーカウンターから腰を上げる。

 疲れ果てた様子のバーニィーは『もう疲れたからしばらく休む。なにかあっても呼び出さないでよね!』などと言って消えてしまった。

 まあ、あいつもそこそこは働いてくれたことだし、しばらく暇を与えてやるとするか。


「それでこれからどうするつもりだい?」


 マスターがタバコの火を消しながら言ってきた。


「どうもこうもないさ。あれだけやれば金狼団の連中も絡んではこないだろう。それに例の『キラーウルフ』とやらが出てきたら同じ目に遭わせてやる」

「そう簡単にいくかね。坊やの強さも大概だがやつは本物だぜ。俺はこの目で保安官ギルドが殺られていくのを見ていたのだからな」

「と言うと?」

「俺は保安官ギルドの団長だったのさ。こう見えてもこのワールドでは相当に名の知れたプレイヤーだったんだがね。やつには1発も撃ち込めずに瞬殺されたよ。情けない話だ」

「ほお。そんな御仁がなぜバーのマスターを?」

「リアル……現実でもバーで働いていてね。保安官の真似事はあくまでもほんの気晴らしだったのだが、あれはあれで面白かった。まあ、こうしてバーのマスターとしての居場所は残っているわけだから他のワールドに移転したやつらよりは幾分ましだろう」

「なるほどね。しかしまあ、自慢の店とやらが今となっては金狼団の巣窟か。どっちがましだったのかはなんとも言えないな」

「はっ、随分と手厳しいね」


 マスターは自嘲気味に笑う。

 実際、僕に話しているときから彼はどこか達観している様子だった。

 おそらくそこにあるのは諦めという感情なのだろう。

 自分の愛した居場所を奪われて、それでもそこを離れることができずに留まってしまう。

 例え、そこが自分からすべてを奪い取った連中の巣窟になったとしても、彼にとってはこのバーのマスターという居場所を捨て去ることはできないのだ。

 誰も彼を責めることはできないだろう。

 

「少し言い過ぎたようだ。すまない」

「いや、坊やは間違っちゃいない。俺には戦う勇気も逃げ出す度胸もなかっただけさ」

「そうか……またホットミルクを飲みにきてもいいかい?」

「それは構わんよ。ただ、さっきも言ったろ。キラーウルフを甘く見ないほうがいい。坊やが今後もこのゲームをプレイしたいならさっさと他のワールドに移転しな。でなきゃ心を折られて立ち直れなくなるぜ」

「ふっ。相手が何者だろうが関係ない」


 マスターにそう返事をして踵を返す。


「そうかい。まあ、困ったことがあったらいつでもここにきな。ろくな手助けはできないが話し相手ぐらいにはなってやるさ」


 そう言いながら、再びタバコに火を点けたマスターに合図をして、僕は『バッカーノ』を後にした。

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