第14話 はじめての情報収集⑤
意外なことにゲームの中で飲んだホットミルクは現実と遜色ない味と風味だった。
実際に腹が満たされることはないが、雰囲気を味わうという点では文字通り文句のつけようがないクオリティ。
まったくもってこのVRという技術には驚かされてばかりだ。
さて、そんなわけで、マスターから聞いた話である。
そもそも金狼団という連中は何者なのか?
元々はこのゲームが販売された当初からいる『犯罪者ギルド』の1つだった。
犯罪者ギルドというのは、ゲーム内でPKから強盗や詐欺行為まであらゆる犯罪行為を行う無法者集団であり、こういったMMOにおいてはさして珍しい集団ではないようだ。
しかし、悪がいれば当然のように正義も存在するわけで、このゲームの場合は一部のプレイヤーが有志で結成した『保安官ギルド』がそういった犯罪行為の取り締まりを行っていた。
あらゆる束縛からの『自由』を謳っているように、罪を犯すのも罪を取り締まるのもあくまでもプレイヤー次第。
保安官ギルドに所属するプレイヤーの場合は、直接的な法執行の権限はないが、犯罪行為を重ねた賞金首プレイヤーを狩ることで利益を得ることができ、さらに一定値以上の『悪徳ポイント』が蓄積されたプレイヤーに関しては、保安官ギルド側で拘束後に『監獄』と呼ばれる特別なワールドに送還することで、半永久的にプレイ権を剥奪することも可能になる。
これを通称『アカBAN』というらしい。
一般的なMMOでは運営側が行っている悪質なプレイヤーを取り締まる仕組みが、このゲームではプレイヤーに委ねられるわけだ。
僕にとってはすべてが初耳であったが、それだけでもこのゲームが自由を謳っている理由は理解できた。
世界のすべてをそこに生きるプレイヤーに委ねるわけだから、このゲームは神の箱庭といってもいいのかもしれない。
ふむ。だいぶ話が脱線してしまったみたいだ。
とにかくこのゲーム――いや、正確にはこのワールドは、そうした『善』と『悪』のバランスがある種の暗黙のルールとして保たれており、些細な小競り合いこそあったものの、比較的平和なワールドとして多くのプレイヤーで賑わっていたらしい。
しかし、半年前に1人のプレイヤーが金狼団に入団したことで、そのパワーバランスは一変することになる。
プレイヤーの名前は『キラーウルフ』。
そいつは入団したその日のうちに金狼団の首領をPKして、事実上の下剋上を成し遂げると、またたく間にウェスタンフロンティアに存在する他の犯罪者ギルドを圧倒的な武力によって統合していき、それまでは小規模な無法者の集まりだった金狼団をワールド全土を支配下に置く恐るべき組織へと作り変えた。
そうして肥大化した『悪』に対して、数少ない『善』は次第に駆逐されていく。
1ヶ月前には腕に覚えのあるプレイヤーを助っ人として雇い入れ、大規模な反攻作戦を実行したようだが、金狼団の戦力は保安官ギルド側の数十倍以上はあり、さらに件のキラーウルフが相当な腕前の持ち主で、主力級のプレイヤーたちをたった1人で血祭りにあげたらしい。
その結果、ある者はワールドを去り、ある者は金狼団の軍門に下り、いつしか正義を執行するはずの保安官ギルドは形骸化して、今となってはウェスタンフロンティアは閑古鳥が鳴くような寂れっぷりだ。
恐るべきはキラーウルフというプレイヤーなのだろう。
そいつは『悪』の帝国を1人で作りあげてみせたのだ。
ここに至って僕は敵の巨大さを理解した。
そして、理解した頃にはすでに手遅れになっていた。
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