第13話 はじめての情報収集④

 僕の使用した『透明な殺意』というスキルには、『使用したプレイヤーを2分間だけステルス状態にする』という効果があった。

 補足説明として、『身体及び所持品に一定以上の負荷を受けた場合はステルス状態が強制的に解除される』とも書いてある。

 要するに周囲にぶつからないように行動しろということだろう。それならば得意分野だ。

 サバイバルゲームは隠密行動が基本。まさかこういった経験もゲームに活かせるとはな。


 さて、金狼団の連中は銃を乱射するバーニィーを僕と思い込んだようだ。

 揃って丸テーブルを盾にして身を屈めている。


 僕は素早くカウンターを飛び越えて、籠城する連中の側面に回り込んだ。

 そして、レミントンの射程距離まで近付いてから、冷静にトリガーを引く。

 激しい衝撃が両手に伝わり、銃口から拡散したスラッグ弾は無慈悲に敵を撃ち抜いていく。


「ぐわぁぁ!」

「おい!? どうしーーギャッ!」


 概ね予想通り。

 奇襲攻撃に連中はさらに混乱を極めたようだ。蘇生しようと味方に駆け寄った者、訳も分からずに棒立ちになる者、叫び声を上げながら無闇に発砲を繰り返して味方を撃ち抜く愚か者もいた。


 僕は敵のリアクションを観察しながら絶えず動き回る。

 レミントンの弱点は射程とリロード時間。

 だが、このような近接戦であれば、射程を気にする必要はないし、動き回りながらリロードを行うことで敵の射線にさらされるリスクを軽減することができる。

 ヒット&アウェイとは、まさしく散弾銃のために用意された言葉だ。


 敵を15人ほど屠ったところで、大半の連中はバッカーノから逃げ出したようだ。

 悪くはない判断だが、それにもう少しだけ早く気付ければもっと利口だったな。

 こちらの残弾数は限られている。

 怖いのは増援を呼ばれることだけ。

 そういったことに思考が働くようなやつがいれば、僕も少しは苦戦していただろう。

 

 奇襲攻撃から2分が経過。

 バッカーノで繰り広げられた銃撃戦は、僕が最後の生き残りの頭にコルトパイソンの銃口を突きつけたことで幕切れとなった。


「……テ、テメェ……マジで何者だ?」

「今日からゲームをはじめた初心者だ」

「……嘘ついてんじゃねぇよ! テメェみたいなやつが初心者なわけねーだろ!」

「よく囀ずるゴミだ。処分してやろうか」


 そう言って、ガチャリとコルトパイソンの撃鉄を起こすと、生き残りの男はヒィッと喚いたきりなにも言わなくなった。

 後はもう怯えた子供のように震えるだけ。


「安心しろ。お前は殺さない。その代わりに逃げていった連中とお前らのボスに二度と僕に近付くなと伝えておけ。いいか。ほんのわずかでも僕の射程に足を踏み入れてみろ。今度は迷わずトリガーを引くぞ」

「わ、分かった! 分かったから! 団長にも他のやつらにもあんたには関わるなと言っておく!」

「そうか。それなら僕の気が変わらないうちにさっさと消えてもらえるか?」


 生き残りの男は返事もせずにバッカーノを飛び出して行った。


 あっけなく終戦である。手応えのない勝負ほど気持ちの萎えるものはない。

 いつもなら無駄な時間を過ごしたと悲観にくれるところだが、レミントンの試射ができたから良しとするか。

 しかし、予想以上に弾を消耗してしまった。まったくもって面倒なことだが、あの女の店で弾薬を補充しておくか。


「あれまあ……こいつはまた派手にやらかしてくれたな。自慢の店が蜂の巣になっちまったよ」


 レミントンとコルトパイソンにリロードしていると、呆れ顔のマスターがタバコをふかしながらを言ってきた。

 言われてみると、確かに店の中は酷い有り様だ。

 カウンターや机は穴だらけで、壁に並んだ酒瓶も大半が割れている。

 穴の空いた酒樽からは赤ワインのようなものが漏れ出ており、床を血の色に濡らしていた。


「悪かった。僕も予想以上の有り様だが、修理代ならそこいらに散らばっているから自由に貰ってくれ」


 そう言って、消滅したプレイヤーの残した金貨袋を指差す。

 これだけ集めればそこそこの金額にはなるはずだ。


「笑えないジョークだ」

「生憎と笑わせるつもりはないのだか」


 ポリポリと頭を掻いていると、マスターは豪快に笑い出した。


「本当に面白い坊やだ。これまでこのゲームで見てきたプレイヤーの中でも間違いなく一番イカれてるよ」

「バカにしているのかい?」

「まさか。褒め言葉として受け取ってくれ」

「ううむ……なんというか釈然としないがありがたく受け取ろう」

「さてと、坊や……いや、ゲン。お前さんは見事に約束を守ったわけだし、今度は俺が約束を守る番とするか」

「おお。そうしてもらえると助かる」

「さて、どんな質問にも答えるという約束だ。きっと長い話になるだろうよ。これでも飲むといいさ」


 そう言って、マスターが差し出したのは、ほのかに湯気の立つホットミルクだった。

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