第8話 はじめての所持金確認

 しばらくすると、間抜けな三人組の肉体は光の粒子となって消滅した。

 後に残ったのは、金貨の入った布製の袋とレザージャケットを含む衣服一式、それと各々が所持していた悪趣味な金色の銃。

 まったくもって趣味に合わない物ばかりだったが、その場に置いたままにしておくのも迷惑な気がしたので、よりあえず全部拾っておいた。

 ちなみに戦闘中に死亡したプレイヤーは三分間の蘇生可能時間リバイバルタイムが用意されており、有効時間内に蘇生することができれば、ペナルティもなく蘇生することができるらしい。

 死んでも簡単に生き返ることができるとは便利なものだ。

 現実の世界では考えられないことである。

 ただし、時間内に蘇生できなかったプレイヤーは先程のように光の粒子になってしまう。

 その際に消失するのは、所持金や装備品だけでなく、経験値や熟練度もレベルに応じて減少するし、さらに三時間の『強制ログイン不能時間』とやらが発生する。

 要するに死んだら三時間はゲームができないのだ。

 そのような理不尽を強いる理由としては、コンテンツ攻略における『ゾンビアタック戦法』を防止するという観点が強い。

 プレイヤーが簡単に『死に戻り』できない状況を作りだすことで、コンテンツへの緊張感を増す。それが運営の狙いなのだ。

 これが『デスペナルティ』の詳細である。


 以上がバーニィーの説明だった。

 うむ。まったく意味が分からん。

 こっちは初心者なのだから難解なゲーム用語を連発されても困る。

 そもそも『ゾンビアタック戦法』とやらを防止したいはずなのに、蘇生可能時間を設ける理由が理解できない。

 死んだらそこでおしまい。また、三時間後に会いましょう。

 そういったシンプルな運用はできないものだろうか?

 と思ったので、バーニィーに質問してみると、「大人の事情♪」と満面の笑みで言い返された。

 悶え死ねばいいのに。


 さて、突然の出来事で周りをよく観察していなかったが、どうやら僕は街の広場にいるようだった。

 周囲を木造の建物に囲まれて、広場の中心には円形の井戸と水を汲み上げるための滑車がある。

 建物の看板には『荒野の仮宿』だとか『あらくれ酒場』だとか『ウェスタン銀行』なんてのもあった。

 うーん。ものすごい違和感。

 どうやらこの街の中だけである程度の経済が成り立っているようだ。このゲームの特集記事にもそのようなことが書いてあったが、なんだか妙な気分になる。

 その場で振り返ってみると、街の出入り口と思われる門に『ようこそ! ウェスタンフロンティアへ!』とアーチが掛かっていた。

 まさに西部劇に登場する町をそのまま投影したかのようなイメージ。

 いや、と言うよりも、ここは西部劇の世界そのものだ。


「しかしまあ……随分と変わった街だ」


 僕は辺りを見渡してから呟いた。

 そこにあるのは西部劇の街並みである。

 別におかしなところは見受けられない。

 だが、違和感があるのはなぜだろうか。

 と思案して、すぐその理由に気付いた。


 この街には人がいないのだ。

 正確には通行人が見当たらない。

 よくよく考えてみれば、先程のような騒ぎが起きれば自然と人が集まりそうなものだが、その場にいたのは僕とバーニィー、そしてあの連中たけだった。

 これでは他にプレイヤーがいるのかすら怪しいものだ。


「でさーこれからどうするつもり?」

「さて、どうしたものかな」


 とりあえずゲームをはじめたものの、特にやるべきことも思い付かない。

 成果といったら無法者を撃ち殺したぐらい。

 なんて言ったら少し不謹慎か。


「じゃあさー臨時収入があったことだし装備を揃えてみたら?」

「銃や衣服のことか?」

「そうそう! 金貨袋にいくら入ってた?」


 布の袋を開いて中身を確かめる。

 金と銀と銅のコイン、さらに横長の紙幣がぎっしりと詰まっていた。


「たくさん」

「適当に返事しないでちゃんと数えてよ! ちなみに金貨は500ガル、銀貨は10ガル、銅貨は1ガル、紙幣は1枚10000ガルね!」

「随分と大雑把に区別したものだな」


 三つの袋からコインと紙幣を取り出して、手早く数える。

 金が20枚、銀が18枚、銅が23枚、紙幣は212枚。

 つまり連中の所持金は2130203ガルということになる。

 うむ。いちいち数えるのが実に煩わしい。


「お金を数えるのが面倒くさければシステムメニューから簡単に確認できるからさ! 次からはそうしなよ!」

「おい。それを先に言え。嫌がらせか?」

「しかしまあ、やっぱPKしてるだけあって意外と持ってたね!」


 バーニィーが驚いたようにため息をつく。

 どうやら連中の所持金はそこそこの額だったようだ。

 まあ、現実に置き換えれば、200万なんて大金だ。

 最初に手渡された10000ガルを足せば、トータルで2140203ガルになる。

 これだけあれば多少の贅沢はできるだろうか。


「さて、それでは装備を買いに行くとするか」

「よしきた! この町には全部で八店舗あるみたい! NPCの店が六軒、プレイヤーの店が二軒ね!」

「ふむ。NPCとプレイヤーの店で違いはあるのか?」

「NPCのお店はシステム側が用意した装備を買えるよ! 便利で安いけど性能が低くてすぐ壊れるともっぱら評判です!」

「ユニ〇ロみたいなものか」

「プレイヤーのお店は自作の装備や他のプレイヤーが製作した装備を買えるの! プレイヤーが作った装備は高性能だけど、すっごい値段が設定されていることもあるよ♪」

「エル〇スみたいなものか」

「色々と引っ掛かるけどそんな感じ! んで、どうする?」

「聞くまでもない。プレイヤーの店に行くぞ」


 どうせ持っていても使い道のない金だ。

 ここは盛大に散財するとしようか。


「オッケー! ここから一番近いプレイヤーの店は……あれ?」

「どうした? さっさと行くぞ」

「……おかしいな……ほとんどの店が閉まってるぞ」

「はあ? どういうことだ?」

「……いや……ボクにもなにがなんだか……」

「すべて閉店しているのか?」

「……えーっと……一つだけ開いてるみたい」

「なら、とりあえずそこに行こうか」

「……うーん……そうしよっか……」


 いまいち納得できないという表情のバーニィーがトボトボとした足取りで歩き出す。

 僕は意気揚々とその背中について行く。


 さて、僕の行き先にはどんな武器が待っているだろうか。


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