第7話 はじめてのスキル設定

「すまん。どうやらお互いの認識にズレがあったようだ」


 気持ちが落ち着いたところで、何やら疲れた様子のバーニィーに話し掛ける。

 激しく言い争ったせいで、かなり疲れているようだ 。

 彼女なりの表現で説明すれば、AIの演算処理に負荷が掛かってオーバーヒート寸前というところだろうか。

 勘違いが原因とはいえ、何だか悪いことをしたようで申し訳ない気持ちになる。


「ぜぇ……ぜぇ……分かってくれたならいいよ……」


 バーニィーは激しく息継ぎをしながら言葉を返す。

 実に人間味のあるリアクション。

 今更ながら、彼女がAIということに驚きを隠せない。

 まったく。科学の進歩とは恐ろしいものだ。


「お疲れのところ悪いが、そろそろ僕が勝てた利用とやらを説明してもらえないか?」

「ぜぇ……キミ……自分のステータスを見て何かおかしいと思ったところはない?」

「武器熟練度とやらが918になっていた。キャラクターLVと比較してもアンバランスだ」


 ゲームには詳しくないが、LVという概念自体は知っている。

 LVの数値が低いほど弱くなり、高いほど強くなる。

 おそらくこの考え方はゲームにも当てはまるだろう。

 となれば、ゲームをはじめたばかりの僕はLVが低くて当然。 だが、それに対して、熟練度が918にはなっているのは不自然に思える。

 

「ふぅ……そうそう! 大事なのはそこ! キミの熟練度は異常に高い! それこそ全プレイヤーの中でもかなり限られたカテゴリーに属していると言っても過言ではないの!」


 ようやくいつもの調子に戻ったバーニィー。

 何を言いたいのかよく分からんが、何となくすごいということだけは伝わってくる。

 まあ、何がすごいのかよく分からんのだが……。


「だからどうした?」

「まあまあ! 百聞は一見になんたらって言うでしょ! まずはシステムメニューの『スキル設定』を開いてみてよ!」

「どれどれ……スキル設定だな……」


 言われるがままに『スキル設定』という項目をタッチする。

 瞬間、視界にずらっと文集の羅列した円形のグラフが現れ、ルーレットのようにグルグルと回転してから静止した。


「それはキミの装備している『スキル』の一覧だよ♪ と言っても、アクティブスキルはまだ何も装備してないようだから、実際に発動しているのはパッシブスキルだけね!」

「待て。アクティブだとかパッシブだとか言われてもよく分からん。詳しく説明しろ」

「そのままの意味だよ! アクティブスキルは『任意で発動できるスキル』、パッシブスキルは『常時効果を発揮するスキル』ってな感じかな!」

「……ふむ」

「まあ、圧倒的にレベルの低いキミがPK連中を倒せたのはそのパッシブスキルのおかげってことだね♪」

「……ふむふむ」

「さて、ここで疑問が浮かびます! キミはこのゲームをはじめたばかりでしょ? それなのにどうしてすでに数多くのスキルを所持しているのか! その理由は『熟練度システム』にあるの!」


 勝手に納得した様子のバーニィーはしきりに頷いていた。

 いかん。完全においてけぼりである。


「ちっとも理解できないがとりあえず話を続けろ」

「一般的なMMOはプレイヤーに個性をつけるために『職業ジョブシステム』を採用してるの! 例えば、『攻撃職アタッカー』とか『回復職ヒーラー』とかね!」

「待て待て。そもそも一般的なMMOがどんなものか分からない」

「あーもう! いちいち話の腰を折らないで! 最後までボクの話を聞いてもらえるかな!?」

「……すまん」

「よろしい♪ んで、このゲームで採用してる『熟練度システム』はその発展型なの!」

「……発展型?」

「最初のチュートリアル時に統合システムがプレイヤーの脳波をスキャンしてて、武器毎の適性に応じた熟練度ポイントを初期ステータスに反映させているのだ! だから、キミのようにはじめたばっかなのに異様に熟練度ポイントが高いプレイヤーも稀にいたりするわけよ! まあ、それってかなり珍しいパターンなんだけどさ! つまりキミってば選ばれし勇者♪」

「……なるほど。要するに銃に対する適性が高かった結果ということか」


 確かに銃の腕前については教官のお墨付きだ。

 元軍人などであれば、僕よりも数値の高いプレイヤーもいるだろうが、そんな人間はゲームなどしそうにない。

 と考えれば、僕の熟練度の数値が限られたカテゴリーという説明もあながち間違ってはいないと思える。


「そうそう! 熟練度が上がれば使えるスキルもどんどん増えていくよ! ただし、あくまでも適性を元にした数値だから漠然とプレイするだけじゃ熟練度はすぐに頭打ちになるの! 統合システムが『限界突破リミットブレイク』を認めない限りはずっと並の熟練度のままって感じかな!」

「……ふむ。今の話を要約すると、勝手に統合システムとやらが僕の脳内をスキャンしたおかげで、あの連中を倒せたということだな」

「イエース! どう!? 熟練度システムはすごいでしょ!?」

「……なんというか……最近のゲームはまるで魔法のようなこともできてしまうのだな……」


 それにしても驚きを隠せなかった。

 所詮はゲームとバカにしていた面もあったが、このリアルな五感や景色、さらに現実と同じ技能まで再現されているとは……。

 これは認識を改める必要がありそうだ。


「せっかくだからスキルを確認してみたら?」

「……あ、ああ。どうすればいい?」

「その『スキルマップ』をタッチすれば詳細が確認できるよ!」

「……これのことか?」


 バーニィーの指示に従って円形のグラフに触れる。

 途端に円の形が崩れて見慣れぬ単語がずらっと視界に並んだ。

 上から順に目を通していくと、



【早撃ちの極意】・・・パッシブスキル

 効果:ドローから射撃までの時間が大幅に短縮される


【正義の銃弾】・・・パッシブスキル

 効果:犯罪者プレイヤーにヘッドショットを決めた際、一定確率で即死効果が発動する

 条件:熟練度が500以下のプレイヤー


【保安官の流儀】・・・パッシブスキル

 効果:犯罪者プレイヤーから受けるダメージを35%軽減する

 条件:熟練度が500以下のプレイヤー


【鷹の照準】・・・パッシブスキル

 効果:狙撃時の手ブレが大幅に軽減される


【高速装填】・・・パッシブスキル

 効果:次弾の装填速度が大幅にアップする

 条件:回転式拳銃



「もう無理だ。目が疲れた」


 途中まで読んだところでギブアップ。

 他にも様々なスキルが存在するようだが、それらを一つ一つ把握するだけでもかなり面倒な作業になりそうだ。


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