第6話 はじめてのステータス確認
騒動が一段落ついたところで、残弾が二発となったSAAに視線を移す。
発砲時の反動。撃鉄の上がる音。立ち込める硝煙の臭い。回転式弾倉の装填方法。
見た目だけではなく、実際の性能も忠実に再現されていることに心の底から驚いた。
これこそ僕の求めていたものだ。
実際、現実の日本では銃を撃つことができない。
仮に銃を撃ちたいのならアメリカとかハワイとかにある射撃練習場に行かなければいけないのだが、僕にはそのような道楽ができるほどの財力はない。
だが、このゲームであれば、その欲求を満たすことができる。
素晴らしいではないか。
父よ。ファインプレーである。初めてあなたを尊敬できそうだ。
SAAから空薬莢だけを排出して、ぽっかりと空いた弾倉に手早く銃弾を装填していく。
腰のポーチに入った銃弾は残り十六発。
これでは長時間の射撃練習はできそうにない。
さて、早いうちに銃弾を調達したほうがよさそうだ。
「あの……ちょっといい?」
なんてことを考えていると、ドアの後ろに隠れていたバーニィーが不安そうな顔で話し掛けてきた。
おいおい。とっくに戦闘は終了したのだからそう怯えることもないと思うのだが。
「何だ?」
「キミ、本当に初心者だよね?」
「おい。お前までバカなことを聞くなよ。そもそも最初にキャラ設定を手伝ったのはお前だろうが?」
「いや……それは分かってるけどさ……どう考えてもおかしくて……普通は倒せないはずなのに……」
訳の分からんことをブツブツと呟くバーニィー。
ったく、煮え切らんやつだ。隠し事をされているみたいで余計にイライラしてくる。
「言いたいことがあるならはっきりと喋れ」
「キミ、ゲームをはじめたばかりだから初期ステータスは最低値のはずなんだよね……それなのにレベルも装備も格上の
「お前は正真正銘のバカか? 頭を撃ち抜かれたら誰だって死ぬだろうが。これは常識だぞ」
「このゲームでは違うから! 攻撃力が低ければヘッドショットを決めても意味がないの!」
「バカな。そんなの非現実的だ。このゲーム壊れているのではないか?」
「あーもう! キミは黙ってて! ボクもかなり混乱してるんだから!」
今度は逆ギレである。
このコンシェルジュは本当に礼儀がなっていない。
販売元に担当交代を懇願してみようか本気で悩む。
しかしまあ、そもそもゲームなのだから、ある程度は現実との齟齬が出てくるのも当然のことだろう。
あまりにも現実と区別がつかな過ぎて錯覚してしまうが、僕が立っているのは仮想現実の世界なのだ。
僕の想像が及ばないことが起きてもなんら不思議ではない。
「はっ! そうだ! ステータスを確認すればいいんだ!」
何やら閃いた様子のバーニィーがポンッと手を叩く。
おい。何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか?
「ステータスといわれても困るな。僕は三流大学に通うしがない一年生だ。社会的な地位などないに等しいぞ」
「確認したいのはそっちじゃなくてゲーム内のステータス! そんなことはいいからシステムメニューを開いてよ!」
「やれやれ……口の聞き方を知らないコンシェルジュだ」
言われるがままに目の前を三回タッチ。
先程と同じように何もない空間にパソコンのウィンドウのようなものが現れる。
バーニィーを呼び出すのに利用した『ヘルプ』の他に、『所持品』や『所持ガル』、『ステータス』、『スキル設定』、『マップ』、『コミュニケーション』などの項目が並んでいた。
よくよく観察してみれば無駄に多い。おまけに何に使用するのか検討もつかない。
もう少し視覚的に分かりやすくすることはできないのか。実に不親切である。
「おっ! ちゃんと開けたね! じゃあ次はステータスをタッチして!」
「ステータスは……これか」
試しに『ステータス』と表示されたアイコンを触ってみる。
すると、さらに別のウィンドウが現れて、そこにはカウボーイの衣装に身を包んだ僕の全身像が表示されていた。
うむ。我ながらハンサムである。意外とこのような格好も似合うものだ。
「あっ! やっぱりそうだったんだ!」
「どうした? 何か問題でもあるのか?」
「QEDだよ! さすがバーニィーちゃんってば天才!」
「おい。一人だけ納得するな。ちゃんと僕にも説明しろ」
「むふふー! 仕方ないなー! じゃあまずは自分のステータスを確認してみて! ほら、ステータスウィンドウに映っているキミの隣に『基本性能』って項目があるでしょ!」
「ふむ。『基本性能』とは……ああ、これのことか」
ウィンドウに表示された僕の隣に『基本性能』と書かれた項目があったので、上から順に目を通していく。
名前:ゲン
称号:初級冒険者
種族:ヒューマン
キャラクター
使用武器:銃
武器熟練度:918
熟練度称号:
「これは……なんとまあ……」
自分のステータスとやらに目を通して、思わずため息がこぼれ落ちる。
「どう!? 気付いた!?」
その様子を見ながら、興奮気味に耳を動かすバーニィー。
「……このステータスの欄にある20という数字は平均よりも低いのか?」
「当然! ほぼ最低値だよ! まあ、キミはゲームをはじめたばかりだから仕方ないよね♪」
「……そうか……そういうことか……」
「いや、それにしても驚いたよ! もしかしてと思ったらドンピシャだったからね! 今こそ明らかにしよう! キミの強さの秘密とはーー」
「黙れ。撃ち殺すぞ?」
「えっ!?」
いかん。怒りのあまり言葉遣いが乱暴になった。
いや、でもやっぱり無性に腹が立つから返答次第によっては折檻の必要性が出てくるな。
「これは何かの間違いだ。今すぐにステータスの訂正を求める」
「ちょっと待って! そんなの無理! 初期ステータスは全プレイヤーで統一されてるんだよ!」
「そんなの知らん。僕は断固抗議するぞ。だって、おかしいだろう。何故に僕の知性が20しかないのだ?」
「……はあ?」
「あれか? 僕が三流大学に通っているからバカにしているのか? あまり僕をなめるなよ。人を学歴でしか評価できないシステムなど僕が破壊してやる」
自然とSAAを握る左手に力が入る。
というか、何から壊せばいいのだろうか?
とりあえずこのコンシェルジュの折檻からはじめるか?
「落ち着いて! これはゲームの仕様なの! 別に他意があるわけじゃなくてーー」
「バカ野郎。他意も故意もへったくれもあるか。僕はこう見えても頭が良いほうなのだ。せめてIQ160に設定し直せ」
「だーかーら! 違うってば!」
とまあ、そんなわけで、言い争うこと約十分。
この知性というステータスは現実のプレイヤーの知能とは関係なく、あくまでもゲーム内の初期設定なので後から数値は伸びるという説明を受けて、とりあえずこの不毛な言い争いは手打ちとなった。
ったく、バカウサギが。最初からそう説明しろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます