第2章 荒野の決戦~ウェスタンフロンティア編~

第4話 はじめてのPK

 肌に吹きつける乾いた風。

 青空から降り注ぐ陽の光。

 鼻に香るのは牧草の匂い。

 まさに典型的な西部劇の舞台である。


「おうおうおう! 久しぶりにプレイヤーがきたと思ったら初心者かよ!」

「ガハハハ! 見るからに弱そうじゃねーか! ありゃ間違いなく初心者だ!」

「大声で喚くな。テメエらの声は無駄にでけーんだよ」


 しかしまあ、そんなカントリーな光景を銃を持った三人組が見事なまでにぶち壊していた。

 モヒカンにアフロにスキンヘッド。おまけにレザージャケットの肩には棘の付いたアーマープレート。

 もしかしなくても世紀末な連中であり、マッドでマックスな雰囲気が漂っている。

 まったく勘弁して欲しいものだ。せっかくいい気分を味わえていたのに。


「おう! テメエ、何か喋ったらどうだ!?」


 僕があらゆる意味で唖然としていると、モヒカンが悪趣味な笑顔を浮かべながら近寄ってきた。

 その手には照準器ダットサイトを付けたM1911コルトガバメント

 ゴールドのカラーリングが陽の光に照らされて輝いている。

 それ以外はノーマルのようだが、如何せんデザインが醜い。

 アサルトライフルならまだしも、近接戦向きの銃に照準器を付ける理由が分からん。

 あれは何かの冗談か?


「ビビってんのか!? 喋らねーと空っぽの頭をぶっ飛ばすぞ!」


 憤怒の表情をしたアフロの恫喝。

 ウィンチェスターライフルの銃床を肩に当てながら、僕のことを睨みつけてくる。

 やはり西部劇にはウィンチェスターライフルである。これがないとはじまらない。

 と言いたいところだが、こちらも銃身がゴールドのカラーリングでセンスが悪い。

 何か意味があるのだろうか?


「兄さん。いきなりでビビるのは分かるが、まずは何か喋れよ。俺たちは見ての通り気が短いぜ」


 最後に話し掛けてきたのはトミーガンを手にしたスキンヘッドだった。

 正式名称はトンプソン・サブマシンガン。ギャング映画でお馴染みの丸い弾倉マガジンが特徴的な銃である。

 なるほど。実物を見るのは初めてだが、クラシックながら実に美しいデザインだ。

 射撃練習場では古すぎて使用できなかっただけに出会えたことに感無量。

 ゴールドのカラーリングでなければ泣いていたかもしれない。


「ちょっと聞いてもいいか?」


 気になることは確かめずにはいられない。

 僕は一番近くにいるモヒカンに声を掛けた。

 

「あぁん!? ようやく喋る気になったか?」

「さっきから気になってたんだが、何故に君たちの銃はゴールドなのだ? はっきり言ってかなりダサいぞ」

「うるせーぞコラ! うちのチームカラーにケチつけてんじゃねーよ! PKされてーのか!?」

「別に構わないがゴールとボールはどこだ?」

「ペナルティキックじゃなくてプレイヤーキルだよ! テメエ、俺のことバカにしてんのか!?」

「プレイヤーキルとは何だ?」

「そんなことも知らねーのかよ!」


 モヒカンの顔がみるみる赤く染まっていく。

 いかん。どうやら怒らせてしまったようだ。


「すまない。少しだけ待ってくれ」


 そう返事をしてから、バーニィーを呼び出すことにした。

 ゲームのことで分からないことがあれば彼女に聞くのが一番。

 と思ったものの、そういえばバーニィーを呼び出す方法を聞いていなかったことに気付く。

 まずい。適当にあしらっていた結果がこれである。


「そこのモヒカン。ナビゲーションNPCはどのようにすれば呼び出せるのだ?」


 仕方ないので、分かりそうな人に聞くことにした。


「モヒカンって言うなし! 俺の名前は『バタフライ』ってんだよ!」

「いや、別に名前とか聞いてないから。さっさと呼び出し方を教えろ」

「あっ……ナビキャラはシステムメニューのヘルプで呼べるけど……」

「察しが悪い男だな。普通はシステムメニューの開き方から教えろよ」

「す、すまん……えーっと……目の前の空間を三回タッチしたらメニューが出ない?」

「おお。ズラッと項目が出てきた」

「それがシステムメニューで右端にヘルプって項目があるでしょ?」

「ああ。これのことか」

「そこにある『ナビゲーションNPCを呼ぶ』か『ナビゲーションNPCと話す』のどっちかをタッチしたらいいと思うよ」

「なるほど。助かったよ」

「こちらこそ……って、ふざけんなコラ! て普通にレクチャーしちゃったじゃねーか!」


 喚き散らすモヒカンを完全に無視。

 ヘルプの項目から『ナビゲーションNPCを呼ぶ』をタッチする。

 瞬間、視界の端にドアが現れて、それが勢いよく開かれると、


「ちわーっす! キミだけのアイドルことウサ耳美少女のバーニィーちゃんだよ♪」


 燕尾服からカウガールの衣装に着替えたバーニィーが出てきた。

 西部劇の世界にウサギの耳をした女性が出てくるとは……世も末だな。


「よお。早速で悪いが一つ質問してもいいか?」

「どんとこい!」

「プレイヤーキルとは何だ?」

「PKのことね! プレイヤーキルってのは文字通りプレイヤーを殺すって意味! んで、意図的に他のプレイヤーを攻撃する人はプレイヤーキラーって呼ばれるの! まあ、MMOじゃ珍しくないけど、迷惑行為に分類されるし、デメリットも大きいから気を付けたほうがいいよ!」

「どんなデメリットがあるのだ?」

「このゲームじゃPKしまくったプレイヤーは賞金首になるわけさ! それで賞金首は『DEAD or ALIVE』状態になるから、殺されるか捕まった場合はデスペナルティの何十倍も重い罰が与えられるの! そんなわけであまりオススメできないね!」


 デスペナルティという単語の意味は分からんが、何かしらの罰則が与えられるということか。

 別にゲームの中で犯罪行為をしたいわけでないので、僕には関係のない話だな。


「メリットは?」

「装備やアイテム、所持金をすべて奪えます♪ ハイリスクハイリターンって感じかな!」」

「ふーん。要するにPKには気を付ければいいってことか」

「そうそう! 何事も平和が一番! ちなみにさっきからキミに銃を向けてるこの人たちは何者なの?」

「噂のプレイヤーキラーの皆様だ」

「ぶわっは!! どうしてキミはログインした瞬間にPKに絡まれてんのさ!?」


 急に顔が青ざめるバーニィー。後退りしながらドアの後ろに隠れようとしている。

 

 これでようやく合点がいった。

 僕に銃口を向けるこの連中はプレイヤーキラーなのだ。

 そして、今回の獲物はゲームをはじめたばかりの僕。

 なるほど。端的に言ってしまえば、少々面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。


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