第4話:リサ・ダートマスについて
リサ・ダートマスは先の大戦で左足大腿部と左目を失った。家族と農作業をしていたとき、空襲により脱落し落下したヘリポートの一部が顔に直撃したのだ。
母親似のリサは大きな二重のくりっとした瞳と、白い肌を持っていて、子供のころから、近所で噂の美少女だった。心配した両親は心配してリサを祈祷師のところにまで連れて行ったが、記憶は定かではない。当時、同じような状況の子供たちは少なくなかった。しだいにリサは状況に適応し、東京に出て、大学生活を送るようになった。
「アビー・ロンド」を立ち上げたばかりのケヴィンに入団を誘われたのは、偶然だった。100メートルハードルは、かつてバスケットボールで国体に出場したこともあるリサにとって、比較的、簡単に思えたスポーツだった。しだいに彼女は頭角を現し、その美しい容姿と失われた左足のミスマッチが注目され「片足の美女アスリート」などと呼ばれた。太陽のように明るく、容姿端麗な彼女の存在が、だだのギーク野郎の集まりだったチーム「アビー・ロンド」を、メジャーなスターダムに押し上げたのは言うまでもなかった。
義足の美少女ジャンパーは、注目された分、それ以上に嫉妬された。リサは、助けをケヴィンに求めた。
一度、週刊誌によってドーピング疑惑をリサがにぎわせたことがあった。新大陸フロンティアである木星の衛星で発見された極限環境微生物が生成する酵素から単離された、筋肉を増幅させるドーピング剤が流行し、第三国の多くの選手が失格となったスキャンダルがあったあたりだった。
リサはその報道以来、ネットや他のタブロイドオンラインメディアから批判され、疑惑の目を向けられ、ショックで動けなくなった。
そんなとき、ケヴィンは競技用でなく、コスメティック義足、つまり生活用に人体に似せた義足をつくってくれたことがあった。
その足は、まさにリサの足そのものだった。ふくらはぎのふくらみ、けがの跡が残る膝、人より少し膨らんだ膝裏、少し先が潰れた小指の爪…。ふだん、ぶっきらぼうで無表情なケヴィンが、これほどの官能的な女性の足をつくりだすとは、意外だった。
リサはその義足を穿いて、膝上のタイトスカートで成人式の写真を撮った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます