第42話 過去の亡霊
「くそっ、放せこの化け物!」
ポチ助が主人を助けんとばかりに触手を伸ばすと、猪之木田は待 守野を放り出し、触手を掴んでポチ助を引き寄せる。近づいたところで力任せに蹴り飛ばし壁に叩き付ける。
「このクソ犬が、さっきから邪魔ばっかしくさって、この! このっ!!」
壁に叩き付けられ、反動で足下まで転がってきたポチ助踏みつける。何度も、何度も……。
「くそー! やめろ、やめてくれ……。」
俺は猪之木田の部下のオークたちに抑え付けられて床に顔を押し付けられている。周りは化け物ばかりで怖くて堪らない。だが、それ以上に何も出来ない自分が悔しくてたまらなかった。そうこうするうちにポチ助はぐったりとして動かなくなり、俺のほほを涙が流れているのが分かった。
「ポチ助……。」
「すぐにお前も同じようにズタボロにしてやるよ。死なねえ程度にな。そっちの嬢ちゃんは死ぬまで大切に楽しませてもらうからよ。ブヒヒッヒー。」
悔しくて睨み付けた猪之木田たちの後ろにそれは既に迫っていた。
「……霧?」
『良く、持ちこたえたな少年。後は任せたまえ。』
言うが早いか、守野を抑え込んでいたオーク達が吹き飛んだ。守野は辺りを見渡すが声の主は見当たらない。
『申し訳ないが、君らに姿を見せる訳にはいかないのでね。』
通路には霧が充満し始め、攻撃を受けた猪之木田たちは密集し防御陣形を取り始める。
「どんな敵かわからんが、
「「「おう!!」」」
モスマン達の毒攻撃のような
だが、日影はさして気にする風もなく言い放った!
『クズ共め、これを喰らえ!』
守野の目の前、何も無い空間から突然、クナイが現れるとオークたちに向かって放たれた。
「馬鹿が! そんなもの我々に通用するものか……。」
手裏剣などではオークの固い皮膚を貫く事は難しいかも知れない。だが、彼の放ったクナイは猪人間共に着弾するやいなや、炎を上げて爆発し、仕込まれていた薬品に引火して奴等を火だるまにした。
『飛騨忍法、
小さな悲鳴と共に燃え盛るオーク達。この技は炎の熱で焼かれる事もそうだが、煙と燃え上がる炎によって酸素が奪われ、窒息死となるのだ。
部下たちが次々と倒れていくなか、猪之木田だけは燃え盛る炎の中で憎悪を込めた目で守野を睨み付けていた。
彼は最後の力を振り絞り全力で守野に向かって走り出す。だが、本来の力を発揮出来ていないのだろう。走りにさほどスピードが乗ってはいない。守野はよろめきながらもかろうじてかわす事ができた。猪之木田はそのままの勢いで突進する。
しまった! 避けた瞬間、彼の視界に波多野の姿が映った。奴の本当の目的は波多野だったのだ。
「バカめ! この小娘も道連れにしてくれるわ! 後悔して泣きわめくがいいさ。ブヒャヒヒヒ!」
下卑た笑い声と共に波多野の元に突撃した猪之木田だが、彼の手は波多野に届く事は無かった。恐怖で身を縮み込ませて目を閉じていた波多野が、ゆっくりと目を開けると燃え盛るオークがすぐ目の前にいた。
だが、その首には何も無い空間から伸びた一本の鞭が絡み付いていた。
『
「燃え散れ!」
蹴り飛ばされた猪之木田は、守野達のいる場所から十メートル近くはね飛ばされ、通路の壁に軽くめり込むと、頭部が
爆散し霧のように舞った猪之木田の返り血を浴びて、透明な男はその姿を現す。その姿は人型のカメレオンのようにみえた。
「さあ、彼女を連れて脱出するぞ、少年!」
「あんた、何者だよ。コイツら何なんだよ。」
「聞けばもう普通の生活には戻れなくなるぞ、それでも知りたければ脱出できた後に教えてやろう。」
口ではそう言ったものの、本当は教える気など無かった。先日の
それでも自分よりも若い命を無為に散らせてしまった事が、彼の心を強く傷付けているのだ。
教団との戦い……そして、コイツら
「さあ、行くぞ!」
数歩あるくと守野は、ポチ助の遺体の前でしゃがみ、手を合わせて目を閉じた。
「ポチ助、助けてやれなくてごめんな。俺たちを助けてくれてありがとう。」
ポチ助の頭を撫でる様にさわると、少し笑った様にみえた。あふれる涙が見せた幻影だとしても俺にはそう感じたんだ。
出来れば連れ帰りきちんと埋葬してやりたい。だが、大型犬並みに大きくなってしまったポチ助を連れて逃げ出すことは難しいだろう。
カメレオンの方をみるとこちらを見て軽く首を振った。俺は立ち上がると俺と同じ様に顔をくしゃくしゃに している波多野の手を取って、歩き出した。ポチ助が作ってくれたチャンスを無駄には出来ない。必ず波多野を連れて戻る、そう決意した守野の手を彼女は強く握り返していた。そうして二人はカメレオンの後を追ってその場を離れたのだった。
カメレオンの後に続き、牢獄の外へと出る事が出来た。だが、ここはなんだ。巨大な洞窟の中にドームと六つの塔の様な円筒形の建物が洞窟を支える様に建ち並んでいた。
「こっちだ、ここを真っ直ぐ洞窟の端まで走れ! 突き当たりの左手に上へと戻るゲートがある。白い仮面を着けた俺の仲間が迎えに来ているはずだ。そこまで全力で走れ!!」
「あんたはどうすんだよ。」
彼は俺のずっと後ろへと視線を向けているようだった。
『俺には別のお客さんのようだ。』そう言うと俺の後ろに向かって走り出す。
「早く行け! 振り向くな!!」
言われるままに守野と波多野は走り出した。前へと、自分たちのいるべき世界へと。
日影向かったその先には二人の人影があった。一人はどこかのアイドルではないかと思える程の端正な顔立ちをした黒髪の女性だ。胸や腰などのスタイルをかなり強調した真っ赤なドレスに真紅のヒールと血のような赤を強調している出で立ちだ。
もう一人は顔半分を銀色の仮面で隠した白髪頭の老人……いやたぶんもっと若い。杖はついているが、細い体にピンと背筋の通った立ち姿だ。
間違いない、彼らは先程助けた少年たちをここへ
「
顔の火傷でだいぶ顔が変わってしまってはいるが、日影にはその語り口調や雰囲気に見覚えがあった。
「まさか、お前は
「ご名答! 君らの放った滅殺部隊が殺したのは私のクローンだ。動かすまでには至らなかったが、死体の役くらいには出来たようだな。クックック……。」
何となくは感じていた。
「何が目的だ、如月!」
「私の目的は貴様らと同じ……何も変わってなどいない。
「ふざけるな外道! 貴様と我々を一緒にするな!!」
戦闘体制を取った俺に対し、如月博士は隣に立つ彼女の手を取ると、軽くキスをして向き直った。
「
「はい、お父様。」
とても戦闘向きな服装では無い。だが、彼女は返事をした次の瞬間、既に俺の隣に移動していた。俺はこちらを見ている彼女の無機質で冷たい無感情な目に……そしてその圧倒的な戦闘力に戦慄したのだった。
ーつづくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます