第23話 狂信……そして。
薄暗いビルの一角でパソコンに向かって必死にキーボードを叩き続ける少年がいた。彼のいる部屋の奥のソファーで寝そべりながらお茶をすする若い男が声を掛けた。
「マモちゃん何一生懸命やってんの?」
「ルクスさんから頼まれたお仕事中スッ。ベルさん暇なら手伝って下さいよ。僕より凄腕のハッカーなんスから。」
「むーりー。俺は怠惰だから。」
ジャスティス教団大罪司教【怠惰のベルフェゴール】はお茶うけのお煎餅をほうばりながらヒマそうにお茶をすすっていた。
「ベルさん、それは怠惰じゃなく、ぐうたらッス。」
「マモちゃん、殺すよー。
「すんませんでしたー!」
ベルさんとのいつもの掛け合いである。
マモちゃんと呼ばれた少年は教団内では強欲のマモンと呼ばれる大罪司教の一人だ。
僕が中学生の頃、総務省の機密文書に違法なハッキングを仕掛けていた時にベルさんに捕まった。逆にハッキング掛けられて居どころを掴まれたのだ。
僕は親の暴力から避難して施設に預かられた子供だった。特にやることもなかったから勉強はたくさんした。いつも親に殴られないために、怒らせないために、頭をフル回転させていた。
だから施設から安全に学校通うようになっても、周りのクラスメイトがバカな家畜にしか見えていなかった。当然友達なんて出来る訳もなく、そのイライラをぶつける先を探していたのだ。
「あの頃は面白がっていろんな秘密サイト潜ってデータ晒して回ったッスからね。」
「何処のバカ野郎が俺の邪魔してやがんのかと思って探ったら、まさか中学生が学校の視聴覚室からやってるとは思いもよらなかったぜ。」
2人はゲラゲラ笑いながらとんでもない事を話していた。ベルさんは本当は怖い人だ。さっき軽口で言ってた『殺すよー。』もたぶんマジなのだ。どこまでも本気で恐ろしい事を軽く言ってくる、そういう人なのだ。
当時、視聴覚室に押し掛けた彼は『俺の駒になるか死ぬか、どっちか選べよ。』と言ってきた。僕がすぐには決められないと言うと、軽く肩をすくめて『駒になるなら明日の12時30分にまた視聴覚室に来るように。』と言って帰りました。
どうせ殺すなんて言ったってただの脅しだろうと軽く思っていた。だけど僕よりも優れたハッキング能力を持ち、警察に突き出すのではなく協力しろと言ってきた事に興味もあった。だからこそあの日僕は視聴覚室に向かったのだ。
あの日の12時30分それは起こりました。学校で大規模なガス爆発、給湯設備から漏れたガスが通風口を伝って教室に充満し、何らかのきっかけで引火。僕のいた教室では全員死亡、死者62名、重軽傷者540名の大惨事でした。
視聴覚室の被害は少なく、轟音で耳がおかしくなってる僕の前にベルさんは現れ『無事で良かったー!』と言って笑いました。その冷たく凍りついた笑顔を見て、僕はコレが彼の仕業だと確信しました。この人に逆らってはいけないと強く思ったのです。
僕は学校が休学になってそのまま
どこからこんなもん手に入れたのか聞くとただ『寄付』とだけ言った。寄付でこんなもん手に入るわけない。どんな手を使ったのか分からないけど、ベルさんはいつも言った事はやる!
怖い人だけど凄い人でもある。僕は今までこんな人に会ったことなんて無かった。彼の言う新しい世界ってどんなどんな所なんだろう。僕はその役に立ちたい。だからこそ何でも集めてみせるのだ、手に入れてみせるのだ!
「お前どこからこんなもん調達してきたんだよ。強欲とは良く言ったもんだな。」
モニターを覗き込みながらベルさんは呆れたといった体で話しかけてきた。超空機動ジャミング衛星【ハインダー】。特定範囲内の電波周波数を検知して必要なジャミングやハッキングのサポートをする優れものなのだ。効果範囲の狭さと運用コストが問題視され、某軍事国家でテスト開発され放棄された物をクーデターで政権交代したゴタゴタの時に掠め取ってデブリに擬装して隠して置いたのだ。
「ベルさんにはかないませんよ。あのゴタゴタでベルさんだって相当いろいろ掠め取ってきたじゃないッスか。怠惰とか言って本当マメなんスから。」
「誰がマメだ、誰が。あの国にはいろいろと必要なもんがあったからな。俺だって必要な時には最低限働くんだよ。俺がダラダラ生きる世界のために!」
「ダラダラ生きるって事をかっこ良く言ってもダメッス。」
2人して笑った。あの事故から5年、僕の灰色だった学生生活を彼は一変してくれた。彼のやろうとしてる事は恐ろしい事なのかも知れない。作ろうとしている世界もどんな物か正直分からない。
でも僕は彼のかたわらで見届けるのだ。必要とされ続けるのだ。全てを手に入れてみせるのだ!それこそが誰にも必要とされていなかった過去の自分自身への復讐となるのだから。
「……で、現状どうなんだ?マモちゃん。」
「監視衛星からの情報と敵のモニターからの情報をまとめるとルクスさんとこのバフォメットさんと蜘蛛男が戦闘中。イラさんが敵戦闘員と交戦中。グラさんがイラさんの所に応援に向かってるみたいッス。」
「おぉ、珍しくみんな張り切ってんジャン。ルクスさんは
「ボンバーマンじゃないッス、ボムヒューマンッス!テキトーに言ってっと、いろんな所から怒られるッスよ!」
ベルフェゴールは『へーい。』と言って肩をすくめた。マモンは申請書類に軽く目を通すとベルフェゴールに報告した。
「たぶん100体近い数ッス。国内では警察でも相手しない限りまともな戦闘になんてなんないッスから、それだけ強敵って事なんじゃないッスか?まあ、シャドウがそれほどの武装集団だったなんてイラさんの執念勝ちってトコじゃないッスかね。」
僕達ジャスティス教団は別段戦闘なんてする必要はないのだ。ただ、イラが過去の遺恨に決着をつけたがっているだけのただの【私闘】なのだ。
だが、テロ対策法案のおかげで警察や政府には恩を売る事が出来るのだし、将来僕らの計画の妨げにならないとも限らない。
イラさんの報告では
むかし海外のサイトで画像は粗かったものの、戦車隊を相手取ってたった一人で戦う銀鎧の魔神の映像を見つけた事があった。
戦車の砲弾を受けても
イラからの報告を受けて気になったので画像のあったサイトを確認してみると既に跡形も無くなっていた。
この武装組織シャドウに関して調べようとすると全て同様の痕跡抹消が行われていた。
「世界規模の大企業や政治家がバックについてるのは分かってるんス。でも、今度は逃がさないッスよ、悪の秘密結社!」
目を輝かせてキーボードを叩くマモンをにこやかに見守るベルフェゴールであるのだが、その瞳は蛇のように細く見るものを凍りつかせるような冷たさに溢れていた。
ーつづくー
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