第24話 大虐殺のゆくえ①
通信のジャミングが開始され、襲撃部隊・サポート部隊との通信が途絶。藤堂からの報告により監視カメラの映像もジャックされ録画映像を見せられていた事が分かった。
仮設の本部で待機中であった蜂谷と藤堂は通信のジャミングが開始された直後から行動を開始していた。
藤堂は蜂谷係長に伊達の救援に向かうための進言をしようとしていたのだが、蜂谷の方が先に口を開いた。
「何事もなければよいのだが、これだけの事をしてくる相手だ。何も無いなどあり得ないだろう。藤堂は直ちに残りのスパイダー隊を率いて伊達と合流。合流後襲撃部隊の援護に向かえ。私はこれより襲撃部隊の救援に向かいスパイダー隊の合流まで時間を稼ぐ。ここも襲撃対象の可能性はある。今泉、私の代わりに指揮を取れ。残りの1係は全員仮設本部の防衛と撤収準備にかかれ!」
「「サー!」」
「菱木と桃園は出来るだけ本部との通信の回復にあたってくれ。通信が回復したら万一の場合に備えて救援要請を出して欲しい。」
「「はい!」」
蜂谷と藤堂が本部を出ていくと、今泉の指示のもと、研修生も含めた全員で仮設本部の撤収準備が始まった。今日子とあかねは大型車輛に擬装した移動用指揮車輛に移って準備を開始する。
「あかねは敵のジャミング発生源を探して。私は使える通信帯を探して見るわ。」
「了解!」
今日子は使えそうな周波数帯を探して片っ端からチェックしていく。そのスピードが尋常じゃなかった。そばで見ていたあかねがドン引きする程だ。
「私が……私がタクトくんを守るの!」
強い意志がこもった今日子の言葉にあかねの心にも火がついた。『私だって犀川くんの力になりたいんだ!』2人の放つ熱気で指揮車輛の中の温度が2℃ほど上がっていた。
蜂谷係長は仮設本部を出ると顔の前で大きく右手を開き変身体制を取る。
「
銀色の流体金属が全身を覆うと上部から徐々に形を成していく。スズメバチの頭部を模した仮面で口元が開いている。口元のホクロが桜色のくちびると相まって妖艷な雰囲気を醸し出していた。
外観は刺の付いた肩当てと紋様の描かれた胸当て、腕とブーツのアーマーの他に鋼鉄製のスカートと腰回りに六角形の穴が蜂の巣のように開いた円筒形のバックパックが2つと
背中に羽根状のデザインはあるものの飛ぶ能力を保有してはいなかった。ただ、
一方、襲撃部隊の坪内は大罪司教【イラ】との戦闘を開始していた。まずは坪内が一気に間合いを詰めると鋭い突きで敵との間合いを計りながら左手に隠し持っていた電磁警棒でイラの胴を横一閃でなぎ払う。
だが、それを読んでいたイラは後方に軽く跳ぶとギリギリで電磁警棒の攻撃をかわし、着地した左足で強く地面を蹴ると強烈な回し蹴りを坪内に叩き込む!
吹き飛ぶ坪内と入れ替わりに各隊の隊長である1係のメンバーが、回し蹴りでバランスの安定していないイラに次々と電磁警棒を持っている襲い掛かる。
3人掛かりの攻撃をかわし、払い、受けると3人目の腕を掴んで2人目に向かって投げつける。すると1人目がそのスキをついて腹部に何かを貼り付けた。その戦闘員がその場から距離を取った瞬間、貼り付けられたそれは爆発しイラが大きく後ろに大きく吹き飛ばされた。
「今だ、輸送車を出せ!5班は全員で援護!イラを絶対に近づけるなーっ!!」
「「サー!」」
坪内の号令と共に俺達5班はハンドレールガンを抜くと、走り出す輸送車を守るようにイラと輸送車輛の間に横一列で展開した。
立ち上がろうとするイラに、包囲していた新人戦闘員部隊がレールガンによる一斉射撃で動きを封じていた。
走り出した輸送車を追いながら僕らの部隊も採石場の入口に向かって走り出す。ところが走り出したばかりの輸送車が入口付近で急停車した。50㏄のバイクに股がった、かなり大柄な男が車の前に立ち塞がり入口を封鎖しているのが見えた。
「ボク参上ーーっ!」
バイクの男が訳の分からない雄叫びを上げると輸送車輛の扉を開けて一人の少女が飛び出した!先ほど僕の事を注意したあの少女だ。
少女は右手の人差し指を男に向かって突き付けると左手を腰にあて、少し斜に構えると胸を張ってこう言った。
「おどきなさい無礼者!何の目的があって
男はバイクを降りるとヘルメットを脱ぎ去り少女に顔を向ける。その顔は耳元まで裂けた口を糸で半分ほど縫いと止めており、両目のまぶたも全て太い糸で縫い付けられていた。その醜悪な顔を少女の方に向けると、負けじと胸を張り、同じ様に少女を指差すと大声で叫んだ。
「ボクは
グラヴは2mオーバーの巨体を揺らして突進を開始する。少女は動かない……いやまさかショックで動けないのか?
「クソっ間に合え!!」
全速力で走る僕の足をスーツがサポートしてくれた。グラヴの丸太のような右腕が彼女を捉えた瞬間ギリギリのタイミングで僕は彼女を抱き抱え、勢いそのままにグラヴの左へと跳ぶ。空を切った右腕の風圧で吹き飛ばされると少女を庇いながら受け身を取りそのまま起き上がる。
「大丈夫か?」
彼女を抱きしめたまま顔を覗き込むと、顔を真っ青にしてコクリと頷く。さっきまでの勢いは何処へ行ったやら。
遅れて来た5班の仲間達がハンドレールガンでグラヴに攻撃を仕掛けた。前に藤堂さんが使った硬質ゴム弾ではなく、コンクリートですら砕く実戦用の鋼弾だ。
だが、グラヴにはとても効果があるようには見えない。腕で顔を庇いながら『痛い、痛い!』と声をあげているのだ。痛いどころの効果ではないはずなのだが、当たった部分は跡すら残っていない。仲間達に不安が
それでもグラヴのそのスキをついて、輸送車の運転手は止めてあったバイクを跳ね飛ばして走り出した。
「全員逃がさないって言ってるんだナ。」
グラヴはそう言うと輸送車輛に体当たりをかまし、そのまま車を横倒しにする。前に進む勢いそのままに横転した輸送車輛の中では学生達の泣き叫ぶ声が響いていた。
「クソっ、攻撃を頭部に集中!奴の注意をこちらに向けさせろ!!」
5班のメンバー達が撃った弾丸が頭部に命中すると皮膚が赤く腫れあがっていった。
「いてぇって言ってんダロウがこのクソ虫共がぁ! マジムカついたンだナ。全員喰い殺すンだナ!」
大声で吠えると、頭を腕で庇いながら背中を丸めた。背中の皮膚が大きく隆起し、ただでさえ大きな体のグラヴが倍以上の大きさに膨らむと背中の皮を引き裂いて巨大な植物が姿を現した。
その植物の本体はウツボカヅラの様な縦長のツボ状の物を3本備えており、茎から映えた4本の触手の先端には2枚貝の様な形状のハエトリグサが獲物を狙って大きな口を開いていた。
グラヴは早速触手を伸ばすとあっと言う間に4人の戦闘員を絡めとり、先端のハエトリグサがその胴体にかぶり付く。
捕まった者達の絶望と恐怖の叫び声が
動かなくなった戦闘員達を容赦なく背中のウツボカヅラに飲み込ませていく。とても人ひとりが入る大きさとは思えないのだか、口を大きく開くとそのまま飲み込んだ。
次の犠牲者を求め、触手はうねり始める。残りの5班のメンバーは現在の状況を受け入れる事が出来ず、その場で立ち尽くしていた。たった一人、僕を除いては。
ーつづくー
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