第2話 始まりの戦い

 都心部のオフィス街にほど近い場所にあるやや大きめの公園……そこにあまりにもその場に似つかわしくない姿の者がいた。袖口のみが赤い珍しいデザインの白のローブを身に纏い、深々とフードを被ったその者は、夕刻時の公園には似つかわしくないあからさまな殺気を放ち、何者も近づかせない……そんな空気をかもしだしていた。


「そろそろか……。」


 その者は声からすると女性であろうか、一言呟くと夕暮れ時で人気ひとけの少なくなった公園内を歩きだす。歩き出してすぐふと気付いた、人が少ない。少々異常な程に急激にいなくなった。


 くるりとあたりを見回すが近くにはほとんど誰もいない。オフィス街から駅に向かう道からは外れていて、民家も少ないとはいえ、先ほどまでは普通に人々の往来があった。


「あの~すみません。たぶん間違いないと思うんですけど……そちらの珍しいデザインのローブ姿はジャスティス教団の方ではありませんか?」


 油断していた訳ではない、後ろから声を掛けてきた男はこちらに気配を感じさせることなくいつの間にか2~3mの距離まで近づいていた。今まで周りに人影などなかったというのに。


「私、教団に興味があって、すこしお話を聞かせて欲しいんですよ。最近テレビにも良く出てますよね?  警察への民間協力…ですか。すごいですよね。暴力団を壊滅させたり、強盗や窃盗団を捕まえたり!」


「申し訳ない、先を急いでいるので。」


 そろそろアレの通過時刻……仲間に確認の連絡を入れる時間が近づいている。話しを切って先に進もうとした私の前をその男はさえぎった。


 フードの奥から冷たい視線で睨み付ける。普通の人間であれば身動き出来なくなる程の殺気を込めたものであったが、そんなものどこ吹く風と言わんばかりにしつこくからんでくる。間違いない、こいつは敵だ。


「少し! ほんの少しの時間でいいんですよ。……が通過するまでの間、お時間頂ければ良いだけですので。」


 笑顔のまま、こちらの腕を取ろうとする男の動きをかがんでかわし、そのまま予備動作なしで男の足を払いにいく!  完全に決まるかと思えた足払いをいとも簡単にジャンプしてかわし、軽く距離を取る。間髪いれずに距離を詰め手刀を繰り出すが、全てギリギリでかわされた。


 ……こいつ強い! 見た目は黒縁くろぶちメガネの普通のサラリーマンといった風だが、やや細身の体つきとは裏腹にしなやかで強靭な筋肉を備えているようだ。


「きさまSHADOWシャドウの一員か? 今回の輸送計画……一体何を運んでいるんだ?」


「申し訳ない、なものでお答え出来かねます。」


 張り付いた笑顔のままそう詫びるとスーツの襟を正して再び戦闘態勢を取る。運搬物については答えるつもりは無いものの、シャドウの一員である事は隠すつもりは無いようだ。


 秘密結社SHADOW……表立った行動は起こしていないものの、反社会的組織である可能性が高いこの組織を教団も警戒しており、私は個人的な復讐心からこの組織を調査していた。


 先日調査部より報告があり、重要な物資の搬送がある事がわかった。今まであまり大きな動きが無かったにもかかわらず、下級メンバーにまで召集がかかった事で事態を重くみた調査部より依頼があり、いくつかあったルートのうちのひとつを私が任されていた。


 お互い距離を取りつつ、隙をうかがう。先に動いたのは黒縁メガネの方だった。力強く地を蹴ると一気に間を詰めてきた。鋭い突きをかわしてニの手を受け流す。こちらからも攻撃を入れようとするも、高さを変えた蹴りが2連続で放たれる。かわすのが精一杯の激しい猛攻でどうしても防戦に回らざるを得なかった。だが、攻め切れないと感じていたのは敵も同じだった。


「洒落にならないなぁ、これだけ攻めてるのに一発も入らないか。あんた何者だよ。」


「こちらこそ、ここまで追い込まれたのは初めてだ。私はジャスティス教団【大罪司教の一人】憤怒ふんぬのイラ。」


「大罪司教の……イラ。ぶち壊し屋のイラか!? うわぁ、俺のチームじゃねぇかよ。」


 聖正義ジャスティス教団、ここ数年で信者数を爆発的に増やしてきた新興宗教だ。入教した信者のあらゆる悩みを全てどんな手を使ってでも解決してきた。それに最も貢献してきた7人、自らののうりょくを使って正義を成す! それこそが教団内で【大罪司教】と呼ばれた者達であった。


 警察への捜査協力 の貢献度は高かったものの、そのあまりの暴力性から《ぶち壊し屋》の異名を得た者がいた。それが大罪司教【憤怒のイラ】であった。


 輸送計画の一部が漏れた事を察知したシャドウではジャスティス教団の動きを監視し、3つの部隊に妨害工作の命令を出した。教団の目的が調査と監視であった為だろうか、他の2ヵ所ではこちらの妨害工作に対し戦闘行為は行われていなかった。


 黒縁メガネも輸送車両通過までの時間稼ぎが目的であったが、監視対象であった教団の車から降りてきたローブの人物のただならぬ雰囲気を感じ取り、公園の封鎖を部下に命じたあと直接対峙する事を決意したのだ。


ある意味予想通りなのだが、よりによって一番厄介な大罪司教を相手にする事になろうとは……予想の少し斜め上をいかれた気分だ。だが、ついていないと頭を抱えながらもその口元には笑みが浮かんでいる。


 やれやれ、こちらも全力でいくしかないか。覚悟を決めた黒縁メガネは顔の前で大きく右手を開いてこう唱えた!


△ 変・身!シェイプシフト


 彼がそう唱えると一瞬にして銀色の液体が全身を覆い、銀色の装甲鎧に変貌した。タランチュラの頭を模した仮面と背中から伸びた4本の腕、腰まわりから大きくスカートのように開いた外部装甲。まさに蜘蛛をイメージした銀色の鎧だった。


「俺の名はシャドウの超甲武装・蜘蛛型シェイプシフター・スパイダー! 以後お見知りおきを。」


 目の前でメガネの男が変身した。正直、私は驚きを隠せなかった。やつらはを作り続けていた。怒りを…抑え…られない! SHADOWやつらを叩き潰さなければならない! 強い感情が爆発的に上昇していく! その時口からこぼれた言葉で私は変貌した。


「変身!!」


 ローブの頭や腕、足元など開いている部分全てから真紅の炎が溢れだした!  着ていたローブが外れて全貌が明らかになると全身が赤熱色の人型のバッタがその身を現した。


「教団には本物の化け物がいる。噂は本当だったのか……。赤熱色の悪魔クリムゾン・イービル。このタイミングで最悪の化け物と御対面とは、泣けるねぇ。包囲部隊は全員電磁警棒を出力最大で抜刀!  身を守る事を最優先で包囲しろ!」


 スパイダーが内部通信モードで部下に指示を出すと周囲にいた数人の野次馬と木の陰に隠れていた数名が姿を現し、全員が白い笑う仮面を身に着けると全身が黒いタイツ姿の戦闘員スタイルに変身した。指示通り電磁警棒を抜刀すると、蜘蛛とバッタを取り囲むように広がっていく。


「藤堂は公園封鎖部隊への指示と姫様への報告を頼む。場合によっては鋼鉄女帝アイアンメイデンの使用をお願いしたいと!」


『了解!』


 副官の藤堂は直ぐ様、部隊への指示を出すと姫への報告を開始した。


「こちらC地点、スパイダー隊、ジャスティス教団大罪司教クリムゾン・イービルと交戦を開始しました!  公園内部の封鎖は完了していますが、万一の場合アイアンメイデンの使用をお願いいたします!」


『こちらバトラー、了解した。ジョセフィーヌの転送準備を開始する。あと少し時間を稼いでくれ!』


「了解!」


 バトラーと名乗った男は通信機から向き直ると鉄の仮面を着けた長い黒髪の女性に向かって腰を落とし頭を下げた。


「姫、箱庭のご準備をお願いいたします。」


 姫と呼ばれた鉄仮面の女は軽く頷くとスパイダーと同じように顔の前に右手を開いてこう叫んだ。


△変・身!シェイプシフト


 超甲武装・鋼鉄女帝シェイプシフター・アイアンメイデンに変身した彼女は右手を大きく前に突き出すとその場の全員に向かって指示を出した。


「ジョセフィーヌの配置完了しだい、敵を魔空間に引きずり込め!!」




 ーつづくー

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