戦闘員【E】 一ノ瀬タクトの諸事情

闇次 朗

第0章 正義と悪の諸事情

第1話 とんでもないとばっちり

 最悪だ…今日は僕にとって、とてもとても大切な日だった。…なのにしくじった。僕の目的を叶える為の第一歩、それが今日の大手グループ企業への集団面接だった。


 それなのに面接中僕はやらかした。ひとつつまずくと後は転がり落ちる様に次々と失敗した。あまりのショックに駅とは方向の違うこの公園にフラフラと来てしまった。


 ベンチで茫然としていると警備員が近付いてきた。工事が始まるので公園内から出て欲しいとの事だ。静かに落ち込む時間すらもらえないのか今日の僕は? 天気は良いのに僕の心は曇りのち雨だ、それもどしゃ降りの。


 どうしても駅に足が向かない僕は公園の外周を当てもなくグルグルと何周もしていた。


 暫くすると急に空模様が悪くなった。公園の上にどす黒い雲が渦を巻いているようにも見えた。本当に雨でも降ってきそうな勢いだ。傘を持ってきていない僕はしぶしぶ駅に向かう道を戻り始めていた。


 先程まで公園の入り口を封鎖していた警備員達があわただしく撤収し始めていた。公園内を覗き込むと黒い人影が何かを運んでいる様だ。近くにいた女性の警備員を呼び止めて事情を尋ねると…。


「作業中にガスの発生がありまして、警察ももうすぐ到着しますので危険ですから近づかないようにお願いいたします。」


 警備員はそういうと【作業中につき立ち入り禁止】の看板を抱えて、公園内に走っていってしまった。えぇっ?? そんな危険な状況なのに入り口に誰も残らないの?


 そう思いつつも、関わり合いになるのは御免だとばかりにその場を後にした。


 ついてない、ついてない、ついてない……。こんな日は決まってが出る。片側2車線の広い道路、まわりはオフィス街で民家など見当たらない。時は夕暮れ、公園内は立ち入り禁止で、外周を何周かしたがほとんど警備員以外の人に出会う事が無かった。……にも関わらずは目の前の歩道にいた。


 時間的な問題か、警備員達が撤収してしまい人影が少なくなったせいなのか、真っ黒なオーラをまとった幼稚園児とおぼしきそれはピンクのスモックに黄色のカバンと帽子……いかにもな感じの服装でシクシクと歩道の中央で泣いていた。


 地縛霊キター!……まったく嬉しくない【キター!】である。だが、僕にはこういう時の極意がある。【目を合わせない事】である。奴等には自分を認識した者に取り憑こうとする習性がある。僕はこういったモノ達に慣れていたのだ。


 だが、慣れていてさえ、しくじる時があるのだ。今日の面接の時のように……。この世の者でないモノが見えている僕は、おかげで学校では《変人・ボッチ君》の名を欲しいままにしていた。


 何もみえていない……何も聞こえていない……そう、僕は風だ、街を抜ける涼やかな風……それが僕。自分に自己暗示をかける。


『おにいちゃ~ん、淋しいよ~、あそんでよ~!おにいちゃ~ん、あそぼ~よ~おにいちゃ~ん、そこにいるの、わかってるんだよ、お・に・い~ちゃ~ん。』


 こ、怖えぇっ。こいつはたぶんタチの悪い方のヤツだ。気付かないふりしてそっとそばを通り抜けようとした時だ、右足が何かに引っ掛かってよろけた。つい反射的にそちらを見てしまったのだ。


『み~つけた~、おに~ぃちゃん見ぃつけたよ~。』


 しまった、目が合った! 右足に絡み付き物凄い形相でこちらをねめつけてくる。 重くなった右足を引きずって先に進む。こいつが地縛霊なら取り憑ける有効範囲から脱出すれば離れてくれる筈だ。


『おに…いちゃん…』

『お・にい・ちゃ~ん』

『お兄……ちゃ…ん…』


 歩道に無数の腕と顔が浮かびあがってきた。ま、まずい……こいつ複合体だ。複数の地縛霊が集まる事でより強い怨念や憎悪を向けてくるタイプだ。


 オフィス街の中に広い道路に、広い公園……それにも関わらず人通りと交通量の少なさ。ここには昔何かがあってそこを潰して作られた場所で、地元民や感の良い人は通らないような場所なのだろう。そういう場所には複数の個体が集まって複合体に成りやすいのだ。


 僕のように見える能力がなくても、なにかゾッとするような場所には大概何かしらいる事が多いのだが、こいつらは別格でタチが悪い。


『降るかな?』

『ふるよ』

『降れば~。降る、降る。』

『ふれ、ふれ!!』


 地縛霊たちが一斉になにかうめき出した。 確かに雨でも降りそうな天気であったが、必死で前に進もうとしていた僕は気に留める余裕は無かった。


 だがその瞬間、僕の後ろで物凄い爆発音がした!


『降るよ!』

『きたよ!』

『こっち…こっち!!』


 地縛霊たちは一斉に声をあげ、後方の空に向かって指をさした。僕も爆発音に驚いて後ろを振り返ると、僕の頭上に向かってトラックがきりもみしながら降ってくる所だった。


 曇りのち時々トラック……なんてついてない一日だ。僕は落下したトラックにすり潰された。




 

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