第25話 動

☆ ☆ ☆


―宣誓 半日前


〈フレア〉【セント】[メディ]「クー」の4人の作戦会議が開かれていた。


〈ニキ国は人口200万人。その内軍人は10万人ほど。私たち100人のざっと1000倍の兵力差だ。ちなみにウチは非戦闘員除いたら約70人ってとこ。そのうち1回の戦闘に出られるのは最高でも40人ってところかな。まぁまともに戦ったら勝ち目はないね。〉

「じゃぁどうやって戦うんですか?」


フレアの説明にクーが素朴な疑問を言う。


〈じゃー問題。どうやって戦えばいいでしょう?〉

「えーっと、現実的に考えて勝てるわけないですよね。無理です。無理。」


クーの弱気なセリフにセントがツッコミを入れる。


【何のためにクーとフレアを呼んだと思ってるのよ?】

「えぇ・・・フレアさん一人で10000人倒せるんですか?」

冗談交じりに言ってみる。

〈そんなことしたら疲れるだろ。〉

出来ないと言ってないところが怖い。


【メディ。あなたならどうする?】

あまり今回の戦いに乗り気ではないメディにセントが話しかける。

[えー、フレアが一人で10000人倒せばいいんじゃないの?]

〈馬鹿、メディまで何言ってんだよ。〉

フレアとメディがいつものやり取りをする。


【メディ。いい考えだけどそれじゃあ90000人足りないわ。】

[じゃあ残り90000人はシンデレラさんがお殺りになってください?]

【いいわよ?あなたの大好きな死体を目の前に90000体積んであげましょうか?】


女3人の会話にはついていけないとクーはこのとき悟った。



ツッコミ不在のまま話はつづく。


〈総数は100000人だけど、このうち2万人はお隣のウィンケレ国に派遣中で不在よ。残り3万は首都周辺に集まってるの。〉

フレアが説明をする。

なるほど10万の軍勢といっても一気に相手にするわけじゃないのか。

「じゃあこの砦や城を各個撃破していけば数減らしていけますかね?」

【そうそう。そのとおり。それでもこの国境の守りを固めるカガサノ砦は5000人はいるわね。】

セント姫が厳しい補足をつけ加える。

70vs5000か。きっついな。

「ここ国境だから人員をたくさん割いてるんじゃ?例えば・・・ここ、トボクならもっと少数で防衛してるはずだから簡単に城を落とせるんじゃ・・・」

地図のトボクというところを指さす。

すかさずフレアの指摘が入る。

〈それだとね、確かにトボクは簡単に落とせるわ。でもそのあとどうするつもり?そこからどうやってニキ国を落とすの?〉

「えぇっと・・・」

【ふふっ、戦争の知識が無いようで教えがいがあるわね。カガサノは自国に引き返しやすいし支援も受けやすいでしょ?まぁ今回は一応個人で戦争請け負ってるって話なんだけどね。ここを占拠したら他の城を攻める拠点にもってこいなのよ。】

攻城戦に詳しいお姫様って可愛いのか怖いのかわからないところがあるよね。

なるほど、確かにトボクを占拠したところで周りを囲まれて動けなくなるだろう。それよりかはカガサノを占拠してからそこを拠点として一気に南下したほうが理に適っている。

〈あと、これは知らないだろうけどトボクは防御に適した城なんだ。反対にカガサノ砦は攻めに徹しているけれど守りには弱い作りになってるの。だからここを攻めるのが正解。〉

[・・・まぁ、ここで奇襲で5000人を相手にできないようじゃあ今後命がいくつあってもたりないわよね。]

流石フレアとメディの戦争経験コンビは得てきたものが違う。

【そういうこと。小手調べと思ってちゃっちゃと挑みましょう。これが突破できなければ国盗りなんて夢物語よ。】


☆ ☆ ☆


【行きます!】

〈行くぞ!〉

おぉー!


20人の精鋭が砦の門に向かって一斉に走り出した。


「うわっ!何だ?」

うろたえる警備。

正門門番はたった2人。余裕だ。


「押し通る!」

シンデレラ軍の一番槍が剣で右の門番の脚を切りつける。


「ぐわっ!」

矢継ぎ早に2人目が左の門番の胴に槍を差し込む。


【進行に邪魔なものだけ切れ!早く門内へ!】

セント姫の声に男たちが続く。


「ぐっ・・・中へ・・・」

彼女たちを止められるものは居なかった。



―カガサノ砦 指令室


「なんだったんだ、さっきの女の声は?」

「いえ、今確認中でして・・・」

バタン!

「隊長!失礼します!急ぎお伝えしたいことが!」

「なんだ?」

「城内に侵入者ありです!」

「なんと!ではさきほどの宣誓は真のものか!?」

「侵入者の人数は!?」

「いえ、それが確認できたのは20人ほどでして・・・」

「はっ、100にも満たない人数でこの砦に攻め入ったと?正気ではないな」

「いやいや、油断するな。その20人は囮で周りを大部隊で囲まれてるやも知れぬ。」

「はい、直ちに確認を!」

「侵入経路は?」

「正門からです。」

「なんと正門から・・・大胆なものだな」

「直ちに市内の兵たちと城内の人間を集めます!」

「うむ、よろしく頼むぞ。」

ガガガガガッ・・・

「?何の音だ?」

「あっあっ・・・門が・・・」

「なんと、正門を内側から閉めようとしているのか。」

ドォーン!

「市内には5000人の軍人を持つこのカガサノの町ですが、今城内にいるのはそのうちのたった200人ほどです!もしこのまま全部の門を閉められたら・・・」

「まぁ慌てるな。それでも200対20の兵力差。追い詰められたのは奴らの方だ。」

「それに南門がまだ残っている。閉じられる前に死守するんだ。そうすれば5000人で愚かな侵入者をたたける。」

「はいっ!」



「正門封鎖しました!」

【おーけー。正門の死守はフレアに任せるわ。あなたたち12名はここへ残りなさい!】

「「はい!」」

〈12名ですか?〉

【何、少ない?】

〈いや、多いなぁって。〉

【ふふっ、頼もしいこと。任せたわ。】

〈お任せください。姫、どうかご無事で。〉

【そっちもね。じゃあ行ってくるわ。】


セント含む28名はそのまま砦の中へと一直線に走っていった。

フレア含む12人は門へと取り残された。


〈暇だなー、マクロ太陽創りだしてあの城へぶつけてやろうかなー。〉

「何物騒なこと言ってるんですか・・・」

取り残された兵がフレアの冗談に乗っかる。

〈まぁ私が火薬庫みたいなもんだから安心してなさい。〉

「はぁ・・・」



【よし、城内に入れたわね。】

「えぇ。思ったよりも簡単に入れるものですね。」

セントの部隊にくっついていったクーが姫に返事した。

【じゃあここから部隊を3つに分けるわ。ここの通路の広さなら7人でちょうどよさそうね。7,7,7の小隊3つで。】

クーは、「えっ、またさらに分けるの?!」と思ったけど口にはしなかった。

【Aチームはこのまま正面突破で。Bチームは隠密行動を心掛けてここの頭を取りに行って。CチームはBチームの後ろについていきます。Bチームに運んでもらって、Bが捕捉されたときにそのまま突破するように。Cに私とクーが入ります。】

「「了解!」」

なるほどAは人数を引き付ける囮、Bは主力に見せかけた囮。CはBに隠れて進む本主力ってところか。

【よし・・・行きます!】

3部隊が城内を駆け巡った。



「いたぞー!こっちだー!」

階段をいくつか登ったところでBが初めて敵に出くわした。

「戦い相手がいなくって寂しかったところだぁ!やってやるっ!」

7人が戦闘態勢に入る。

ガキィン! ザシュッ!

「うわぁ、なんだこいつら、強い!!」

ニキ軍が慌てふためく。

「はっはっは、弱い弱い!主力はまんまと囮につられてくれたようだなぁ!」

「もっと全力でかかってこいよぉ!」

シンデレラの軍とは圧倒的な実力差があった。


「ねぇ、シンデレラ嬢。」

【なに?クー。】

Bチームが戦う後ろで2人が会話をする。

「あの、Bが戦ってるんだから俺らも加勢した方がいいんじゃないのかな?」

【あのねー、あなたが優しいのは分かるけど、Bは一応私たちの囮なんだから。このまま。】

「いや、囮ってやっぱり危険なわけじゃないか。残してきたフレアたちとか、城内で1番の標的になってるはずのAチームとか、大丈夫かな・・・」

セントはジトっとクーを上目遣いでにらみつけた後、怖いくらいの笑顔で言った。

【大丈夫よ。みんな強いから♪】


☆ 


―司令部


火事でも起こったかの如く、大慌てで対応に追われていた。


「報告します!正門未だ開かず!なにやら魔法使いがいるとの模様で誰も近づけません!」

「馬鹿者、それは魔法ではない。学術だ!南門は?」

「南門!なにやら奇妙な状況にありまして門が開かないとのこと!」

「奇妙なこと?何を言っている。」

「いえ、にわかには信じがたいのですが・・・話によると、門をふさぐように大木が生えているとのことで・・・」

「何を言っている・・・南門をなんとしてもこじ開けろ。北門には弓隊を持っていけ。遠距離から研究者を仕留めろ。」

「はいっ!」

「侵入してきた部隊はどうだ?」

「ただいま1階通路にて交戦中!かなりの手練れでこれが主力部隊だと思われます!」

「いえ!ただ今3階階段上通路にて別部隊と交戦中!こちらも誰一人傷を負わせることができず、かなりの強者揃いです!こちらが主力かと思われます!」

「なんだ、どうなっているんだ!誰と戦っているんだ!」



―南門


門の前には何千年放置していたのかと疑うような樹木であふれかえっていた。

大木が邪魔で門を開くことができない。


「斧だー!斧を持って来い!」

「火をつけろー!」


門の見張り台から肘をついてその様子を見降ろす女性が1人。

紫の髪、フレームのないメガネ。

[ふふっ、私が1日かけて生やした桐の木よ。その程度の火力で燃えるものですか。]



門の見張り台に10人の男女が身を寄せ合って集まっていた。

「メディさんメディさん。」

[ん?どうしたの新兵さん?]

「いいんですかね・・・下に敵兵が集まっていますけど、倒さなくって・・・」

[いいのいいの。私たちが姫に命令された内容おぼえてます?]

「えっと・・・南門の死守です。」

[そう。だからわざわざ傷つけ合いに行かなくてもいいの。]

「はぁ・・・でもみんなが戦ってるのに私だけ見てるなんて・・・」

[あのね、シンペイちゃん。ここには私を含めて非戦闘員もいるんだから、そういうこと思っちゃダメよ。あなたの仕事は私たちを守ること。いい?]

「はい、そうですよね。すいません上官に失礼な口をききました。」

[いやいや、構わないわよ。]

素直な若者に心打たれたのかつい本音がこぼれる。

[あのね、もう一つ実は理由があるの。]

「はい?何ですか?」

[嫌いなのよ。人殺しが。]



【クー、計算!敵部隊はあと何人!】

突然そんなことを言われた。

「はいっ!えっ?!えぇと・・・今30人はBが相手にしたところで、Aはこれよりも相手にしてるとして・・・えぇとあとフレアの部隊が何人引き付けているか・・・あと裏門に何人いったかなぁ?そもそも全部で何人だか・・・」

【阿保!のんびり計算してないの!経験に勝るものなし!今が勝機よ!】

「えぇっ!?」


鎧が剣をはじく鈍い音が響く。

Bの7人は何人敵を倒しただろうか。

隠れながらだったからよくは見てはいないが、確かに先ほどと比べて敵の投入人数が落ち込んできていたように感じた。


そうかもう弾不足か!

ここで主力が飛び出れば一気にけりが付くだろう。


【準備はいい?3・・・2・・・1・・・】


【行きます!】


最終部隊が飛び出した。



―指令室


ドォオン!


爆裂音とともに少女たちがなだれ込んできた。


「な、なんだ!お前たちは!」

うろたえる一人の軍人にセントが刀の切っ先を向ける。

【我が名はシンデレラ・ヴァン・カーネーション。ここの兵たちの犠牲を少しでも減らすために今すぐ投降してはいただけないでしょうか?】

にらみつけ厳しい口調で姫が言い放つ。

「ふざけるなぁっ!」

1人の男が剣をもってセントに切りかかる。

ザシュッ!

「う、うわぁぁあ」

瞬間、その男の腕が飛び散った。

シンデレラ嬢はというと微動だにしていない。

連れの1兵士が即座に切り捨てたのだ。

セントは瞬きすらしなかった。その異常さが彼女の部隊の実力と信頼を物語っていた。

「・・・わかった。私がここの隊長を務めているノサ・ガカシアだ。」

1人の老人が両手をあげて言った。

「全軍に通達。武力を放棄しておとなしく投降せよ。」

【ありがとう。助かります。】

セントは刀を鞘に納めた。


そしてクーの方に向かって話しかけた。

【どう?城崩しの模範解答よ♪】

「すげぇ・・・てか何もしてないな俺。」


カガサノ砦を占拠した。

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