第24話 計

雪国・・・サントリーカクテルコンクールで第一位に入賞した井山計一氏の作品。スカイウォッカベースの緑色が美しい。

カミカゼ・・・スカイウォッカベースの白色カクテル。戦闘機カミカゼのような強い口当たりが特徴。


―ニキ国 ヤタ砦


首都ウトミヤの側近のこの砦には、国の主要兵力がそろっていた。

その砦の見晴台に、男が2人。


「女の子の誘拐とか上は何を考えてるのかのぅ・・・」


ニキ国の軍服を着た白髪の爺さんが夜空を眺めながらつぶやいた。


「さぁ・・・見せしめに女子供を拉致ってところだろうけど、こういうやり方は嫌いなんだよなぁ。」


隣で煙草を吸う緑の単発の屈強な男がそのつぶやきに参加する。


「ヴィクトリに敗戦をきしてから北方の国とはアクセスが悪くなり、土地も一部奪われ、おまけに前国王が亡くなって、新しい王は西の国に頭を垂れてヴィクトリには拉致やテロまがいの政策ときたもんだ。俺はこんなやり方で戦に勝てるとはおもわないね。」


「これユキグニ。そういうことを城内で言うもんでない。どこで誰が聞いてるか分からんぞ。」


「へいへい。カミカゼのじーさんも、上に煙たがられてるんだから。軍法会議であんまり意見しないようにな。」


「ふふ、わしは大丈夫じゃよ。下に信頼できる部下たちがいっぱいいるからな。」


夜は更けていく―


☆ ☆ ☆


【で、】


ろうそくの明かりの元、セント、フレア、メディ、クーの4人が机を取り囲んでいる。


【クーはまだ地理が分からないわよね。とりあえずこの地図を見て。】


セントが1枚の地図を広げる。

ヴィクトリを中心に、周囲の国を描いた地図。

ヴィクトリの真南にニキ国が広がり、そしてヴィクトリは周囲を6つの国に囲まれたところに位置していた。


【今から攻め入ろうとしている国がニキね。この南の。そしてこれが大まかなニキ国内地図。】


セントがもう1枚の地図を広げる。


【これ、○のついているところがニキ国内の砦や城よ。とりあえず、国境のこのカガサノ砦を突破するわ。】

セントの説明を聞いて、クーが手をあげる。

「あの、待って。ニキ国にいるシャーリーを探して連れ帰すのが目的でしょ?何も軍と戦わなくても、少数でこっそりと入国して取り返せばいいんじゃないのかな?」

セントが答える。

【何言ってるのよ。その軍にさらわれたんだから、大義名分で国を潰せるのよ。国境付近で行方不明者が出てるって報告はいくつか寄せられていたけど、今回のシャーリーの件でニキ国の拉致だってわかったんだもの。戦争の前倒しみたいなもんよ。】

「え・・・百人で戦争して来いって国王様が言ったわけ?」

【直接は言ってないわよ?】

「えぇ・・・」

クーが気の抜けたため息を吐く。

同じくフレアが呆れた声で言う。

〈こういう親子なのよ。この姫と王は。〉

セントが続けて言う。

【まぁシャーリーを無事に連れて帰ったとしてもすぐに戦争が起きると思うからいいのよ。これで。それに私一応姫だから。私が捕まるか殺されるかしたら即戦争よ。】

なんて物騒なんだとクーは思った。

先ほどまで黙って聞いていたメディが口を開く。

[あまり人を殺したくないのだけれど・・・駄目かしら?]

【安心して、メディ。私たちも同意見よ。シャーリーを生きて連れ戻す。人殺しは極力しない。もちろん子女や非武装員は襲わない。てかそんな余裕ない。自軍も殺させるほど人数がいるわけじゃないし、私たちも死ぬつもりはないわ。あとは軍医さんの腕次第ね。】

セントがメディにウインクする。

[はいはい、じゃあセント姫を信じます。]

【まかせなさいって!】



―早朝

ニキ国 国境線―


セント姫の前に100人近くの人々が集まった。

そのうち武装しているものが8割ほど。

国軍を表す鎧をつけているものは一人もいなかった。


セントがみんなを前にして演説を始める。

【先ほど指示した通り、あなたたちの部隊を4つに分けます。スパイアサシン能力に特化した偵察索敵部隊10名。救護補給をしてもらう後衛部隊58名。戦闘をメインに挑んでもらう前線部隊31名。後衛部隊の半分は前衛部隊とローテーションで交代をしてください。優秀な兵士たちに補給部隊の仕事をしていただくのは役不足に感じる方がいるかもしれませんが、後衛の大切さは歴戦の勇者であるあなたたちが一番よく知っているはずです。体調のすぐれない者、負傷をした者は後衛部隊に固定して最後まで戦い抜いてもらいます。】

歴戦の勇者とたたえられた者たちは姫の言葉を黙って聞いていた。

1軍を抜けた老騎士や就任して1年とたたない青年など、彼らの人柄は様々だが、姫の親衛隊であるこの部隊には選ばれた人間しかいない。

1、王か姫に直々に任命されたもの

2、国および姫に忠誠を誓った者

3、強き者

この3つが満たされなければ選ばれることはない、ヴィクトリ国でもエリートと言っていい兵士の集まりだ。

【ご存知の通り、人員不足なので最低限の戦闘以外いたしません。敵も味方も、無駄に死なず無駄に殺さないように。攻城と言えど相手はニキ国。敵将軍を撃てば軍隊は壊滅しますのでそれをお忘れなきよう。】

一言一言に兵士たちは納得の表しとしてうなずいた。

【大将は私、セント・トパーズ・シンデレラ・ローズ。最前線に出て戦うので皆さんついてきてください。指揮官兼戦闘員フレア、軍師は彼女に任せます。軍医及び後衛隊指揮はメディ。そして初対面と思いますが軍師兼戦闘員にクード・ヴァン・カーネーション。】

兵士たちが少しざわついた。

【彼は国家研究員になりたてで戦闘経験は皆無です。ですが頭脳は私と同等のものを持っています。実戦の中で色々教えてあげてください。役に立たないと判断したら後衛に回します。】

クーはその場で深々と頭を下げた。

これに異を唱える者などいない。姫を中心とした一枚岩の屈強な軍隊だ。

【では!これから私は王族の称号と家名を外します!シンデレラ・ヴァン・カーネーションの名を名乗りますので以後それに従うように!以上!じゃあフレア教士、作戦の指揮を。】

フレアが100人の前に出る。

〈フレア・カルーア・カーネーションだ!みんな久しぶりだね。〉

こうやって、フレアやセントが大勢を相手にするのを見ると、2人が本当に偉い人だったんだなと実感する。

今まで家族のように、友人のように接してきた2人の違う姿を見て、クーはそんなことを考えていた。

〈前一緒に戦ったメンツもちらほら見受けられるね。前の戦を逃げ出した私が、こうやってまたあなたたちの指揮官になるなんて筋が通っていないと思ってるよ。〉

みんながみんな静まり返ってフレアの言葉を聞いている。

〈だけどね、今回は人殺しが目的の戦争じゃない。国でも土地でもなく、私の家族を守るために私はまた命を懸けようと思った。人を殺める覚悟をしてきた!ここに集まってくれた人たちにはみんな家族がいるだろう!愛する人がいるだろう!その人がニキ国に危険に晒されているんだ!だからどうか、私と一緒にまた戦ってほしい!私たちの国と家族を守るために!!〉

おぉー!!!!!

男たちが雄たけびをあげる。


士気は高まった。



【我が名はー!シンデレラ・ヴァン・カーネーション!妹の敵を取るためー!妹の無念を晴らすためにここに来たー!これから開戦を宣言するーー!!】


ものすごく甲高いセントの声で宣誓を行う。


「いやいや偽名だし。実の妹でも義姉妹ですらないし。」

というクーのツッコミは誰も聞いてなかった。


【行きます!】

〈行くぞ!〉

おぉー!


ここに少女代理戦争が開戦した。

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