第3話 そろそろネタが尽きてきた。
地元から茨城へどう通うか? そもそも地元からでは茨城(勤務先は水戸市)に通うのは、難しいのではないか。勤務先が駅の近くとはいえ(これで勤務先がある程度特定されてしまうのであるが)、両親への負担、交通費、朝起きる時間なども勘案して、いっその事、茨城(正確には水戸)で一人暮らしをすることにした。さて内定をいただいた翌日から早速水戸に乗り込んで、家探しだ。地元にいるうちに、水戸にある、めぼしい不動産屋に目をつけておき、そこでオススメ物件を見て回ることにした。住む部屋はあっという間に3件に絞られた。どれも勤務先から自転車で15分程度のところにある。どの部屋も一長一短だった。昼ご飯を食べるときに、父と弟(同行していた)にどれがいいかと聞いてみると、3人とも別の物件を選んだ。最終的に住むのは自分なので、自分の意見を通した。3階の角部屋、すぐ近くにクリーニング店とコンビニエンスストアとスーパーマーケットがあるのが、決め手だったろうか。
住む場所が決まったら、今度はそこに入る家電・家具類を整えなければならない。幸い、JR水戸駅の駅ビルの中に有名家電量販店が入っていたので、大半はそこで整えた。実家から持って行ったのはタンスと本棚くらいのものである。もちろん本、漫画、DVDなども一緒に持って行った。ベッドは新たに買うことになった。概ね、心配なことも取り除かれたし、まあ、いいかと思っていたのだ。そう、私はこの街で、例のアレと遭遇するのである。この時の私には想像もしていなかったのだが。
さて残っている問題としては、医師に処方されている薬をこれから少なくとも1年間どのように手に入れるかである。毎週日曜日に地元に戻っても、その医師の医院はお休み。勤務先も週休1日である。今までの例により、例の「絶好調」をここで出すと管理職は好い顔をしないことは目に見えているし(そもそもそれを理由に採用を取り消すかもしれないし)、かといって何十日間も一睡もせずに働くことが、仕事に影響をもたらさないわけがない。どうしたかといえば、保険証をコピーして地元のかかりつけ医の元へ親が薬を取りに行き、それを郵送ないし宅急便で送るということになった。
最後の難関、「絶好調」を抑える方法を片付けた私は、数年間にわたる教員生活を送るわけである。いや数年間というのは誇張しすぎだ。まともに務められたのは2校2年間だけである。その他公立中学の病休臨時任用があったばかりである。それも2ヶ月間という短い期間である。こうしてみると教員としての自分は今までの経歴の中で大した位置を占めていないということが、改めてわかった。
そもそも教員としての適性はそんなに高くなかったのかもしれぬ。象牙の塔にこもるという前提で作られたメンタルである。社会人のそれとはまた違う。それに長い就職活動に疲れ、自己評価も相当低くなっていた私は教員としての資質を磨くことより、その日その日をどうにか過ごせればいいやというような心理状態に陥っていたのだと思う。このような精神状態で学校教員をやっているとどうなるか。いわゆる「甘い」、「ぬるい」教員に成り下がってしまうのである。
教師におもねってくる生徒がいれば、その生徒を可愛がり、テストの採点もほどほどに緩くなり、簡単に言えば生徒に嫌われるのを極端に恐れるようになるのである。夏目漱石の作品に『坊ちゃん』という作品がある。漱石の代表作で内容を知っている人がほとんどであろうからここで詳しく内容は語らない。主人公の真逆になってしまったのである。生徒たちに生きた指導もできず、時に厳しい言葉をかけてやることもできずにいた。生徒に絶対的に信頼されるわけでもなく、かといって敵対されるわけでもなかったが、最後の時だけ、『坊ちゃん』の主人公と同じく、教員という職を捨て、別の仕事を探さなければならなくなったのである。もっとも漱石の『坊っちゃん』は同僚教師たちの争いが馬鹿馬鹿しくなって、いわば自発的に退職するわけだが、私の場合はただ単に契約期間が終わり、その期間内に「自分はこの学校に必要な人材である」とアピールすることができず終わったのである。
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