第2話 おかしいと言われても

 学校教員を目指す生活が始まっても、私の「絶好調」ぶりは変わらなかった。眠れない、もとい眠らない生活が続いても、私の体調は変わらなかった。あまりの「絶好調」ぶりに医師に睡眠剤を処方される始末。寝ろ、というのか。確かに、一定期間寝ないと免疫力が落ちたり、注意力が散漫になったりするので、仕方なく医師の指示に従う。

 さて教員試験を受験するにあたり、一人で挑むには、大軍の中に単騎で突撃するようなものだと、考えて教員採用試験や国家公務員試験を扱う専門学校のようなところに通う。とはいえ、周りは真剣に教員になりたいと望む若者ばかりである。私のような、行くところがなくなったからここにしよ(テヘッ)みたいな奴はほとんどいない。いや絶無。それでもそこそこやれていたのは、やはり「絶好調」のせいかもしれない。

 環境自体は、学生という身分が外れ、就職浪人となったわけである。地理的な環境は専門学校と大学院生として過ごした大学が、ついでに言うと学部生として過ごした大学もすぐ近くにあるという、ほとんど変わらない環境だった。問題があるとすれば、経済問題だった。この専門学校もボランティアやNPO団体が運営しているわけではなく、しっかり授業料や教材費を取るわけで、そこは親が毎年のお年玉をくすねて貯めてるので助かった。

 だいたい教員採用試験は、臨時任用を除けば夏場の暑い時期に行われる。しかも近隣の自治体は隣の自治体と二股かけられないように同じ日に試験日を設定する。だから複数の自治体を受けたければ、関東や東海、関西といった大きな地域区分をまたぐ必要があった。私は教員になるまで何年か挑戦し続けたが、ひどい時は、3股くらいかけていたような記憶がある。関東で一つ、東海で一つ、山陽で一つというような具合に。当然のことながら、各自治体も遠くから受験者が来るからといって、宿泊施設の斡旋とか、交通費の補助だとか、そういった気の利いた措置は一切取らず、すべて自己責任・自腹である。

 つまり夏場に自分の能力のピークを持っていくという生活を何年か続けていったが、一つも成果が上がらなかった。せいぜい先ほどの地方遠征で出かけた先で、一次試験には受かるが、その後が…という感じである。惜しいのか、惜しくないのか、よくわからない。

 地方遠征で先ほど医師から処方された睡眠剤を、出かける際に忘れてしまい、前日一睡もせずに面接試験に臨んだこともある。そりゃ、落ちるわ! いくつかの自治体を何年かに渡って受けてみて、分かったことがある。私が「絶好調」ぶりをアピールすると決まって、その自治体とはご縁が立ち消えとなる。むしろ隠した方が上手くいくくらいだった。ナンデダ。

 この件を専門学校の講師の方に相談すると、そういうアピールは相当上手くしないとかえってマイナスポイントになるよ、てなことを言われた。???バリバリ働けた方がそちらの自治体さん側も都合がいいんじゃないですか。違うの?なんで? このやり取りは私の中で、なんとも言われぬ違和感として残った。

 こういう生活を繰り返しているうちに、専門学校側の講師の方たちの中で私の顔と名前を覚えてくださった人たちもちらほら現れ始めた。これはこれでありがたいことなのだが、その分、こちらは受験に失敗していてある意味あちらの期待を裏切り続けているということなので、なんとも言われぬ罪悪感を感じ始めた。そのうち親の勧めもあり、教員の道も諦めた。いや諦めたというのは正確ではない。公立がダメなら、私立があるじゃん、と思い直し、東京都の私立学校が実施している、私学教員適性試験なるものを受けたり、教員専門の派遣会社に登録したりして、あがいてみた。それでもなかなか決まらなかった。

 ようやっと決まったのが、茨城県にある私立高校の臨時採用だった。期間は一年。喜んだのは、私の周囲の人々だった。私は私で、地元を離れての一人暮らしができるか、心配だったのである。

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