第22話

探索者2人組は、それぞれの武器を手にマヒルと対立した。


片方は抜き身の日本刀を。

もう片方は1枚の木の板と2本の角材を。


片方がアタッカー。

そしてもう片方が魔法でサポートをする戦闘スタイルか。


国選探索者レンジャーの戦闘能力がいかほどのものか、マヒルはよく知らない。


だが、単身敵国に潜入したスパイとして、いつか戦うことを想定していた相手ではあった。


とにかく強い、という噂だけは聞き及んでいる。


「あ、お前たちには、どのみち、死んでぇーもらう!」

「いよっ! 覚悟しろ!」

「ひえぇー!? 私たち、死ぬんです!?」

「助さん、後ろに下がってくだされ」


おろおろする助さんは、ダンジョンのサブリーダー的な立ち位置である、ここで死んでもらってはならない。

この場合、戦力になるのはどんな状況でもどっしりと構えた桃太郎だ。


「桃太郎!」


ぐるるる、と唸り声をあげた桃太郎は、みるみる巨大化していった。


桃太郎の特殊能力、身体の大きさを自在に変えるが発動した。


2メートル、3メートルほど巨大化したあたりで、狭いダンジョンに天井がつっかえ、身動きがとれなくなっていた。

眉毛犬が不思議そうな顔をする。むせる。


「桃太郎! 伏せ!」


マヒルの命令で、その場に伏せをした桃太郎。

畑づくりを通じて、2人の間には信頼関係が生まれていた。

マヒルはその背中を蹴って、探索者たちに飛びかかっていった。


「はぁぁっ!」


錆びた剣を振り下ろす。

探索者は日本刀の柄を胸にぴたりと添えるように縦に構え、空いた手のひらをこちらに向けている。

もう片方は地面にすり減った木の板を敷き、手のひらサイズの角材、打木うちぎを両手に持って、それに打ち付けていた。


ききんっ! ききんっ!


「あ、きぃかぁーぬぅぅぅーっ!」


裂ぱくの気合とともに日本刀をぐるん、と振り回すと、マヒルの錆びた剣を真正面から打ち下ろした。


この打ち合いによって、マヒルは相手の力量を悟った。


(この男……出来る!)


片足立ちに、手はあらぬ方向にまっすぐ突き出された、一見、バランスの悪いような構え。

だが、刃を重ねてみてはじめてわかる、その芯は驚くほどどっしりとしていて、隙がなく、ちょっとやそっとでは突き破れそうにない。

いったい何千回、何万回おなじ動きを繰り返したらこの境地に至れるのか。


片足立ちになって、数歩けんけん跳びをし、マヒルから距離をとる。

そして、腰の鞘に日本刀を納めた。

三度笠を目深にかぶると、力を込めるような構えを取り、ひときわ長い咆哮を放った。


「いよぉぉぉーおおおっ!」


キンッ!


打木の音が響いた。


探索者は片脚をあげ、けんけん跳びをするような格好で、一歩ずつマヒルに接近していく。


キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キンッ!


でた。八艘飛び。

敵国の報告書にも「この連携攻撃が発動している間は要注意」と書かれていた。


マヒルはそれに合わせて、少しずつ後退していった。


後退していった……そのとき、マヒルはがくっとバランスを崩し、後ろ向きに転んだ。


いったい何が、と思ってよく見たら、なんと右足の膝から下がなかった。


……切られた!?


いつ切られたのか、まったくわからなかった。


動揺するマヒルをよそに、探索者たちは打木をやたらめったら打ち鳴らし、見栄を切るのだった。


「あ、これぞぉ、秘剣・八艘飛びぃぃぃ!」


「いよぉっ!」キンッ!


こいつらは、強い。

マヒルは、はじめて焦りを覚えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る