第20話

コボルトの作った穴の1つに潜っていくと、地下を流れる川に突き当たった。

俺の10メートル・ダンジョンよりも立派なダンジョンに嫉妬を覚えつつ、見渡してみると、そこには俺の魔力が染み出して生まれた、大量のスライムたちがひしめいていた。


天井にも床にもうようよとうごめくスライムたちに、普段スライムを主食にしている助さんでさえ青い顔をしていた。


「ひぃぃぃ! なのですよ!?」


「凄まじい数のスライムだな……都合がいい」


俺はスライムの1体をダンボールに入れ、もはや定番素材となりつつあるインプのおっさんと一緒に蓋をした。


「『融合』……ッ!」


融合スキルが発動し、ダンボールから出てきたのは、透明な青い体を持つ馬だった。


人型ではないが、獣でも相変わらず可愛い。

スライムの上位種、水棲モンスターのケルピーだ。


「ケルピー、お前をスライム・リーダーに任命する……名前はもう決めてある、『ルンバ』だ!」


その瞬間、ケルピーはひひん、といななくと、体がメキメキと強化されていった。

透明な青い体は数倍に膨らみ、巨大なスライムの塊となって、そこからにゅっと女の子の上半身を伸ばした。


「ふふ、ふふふふ……?」


なにやら、俺たちを見下ろしてにやにやと笑っているルンバ。

スライム化した下半身が天井にべっとりとはりついて、細っこい胴体が監視カメラみたいに俺の方を見ている。なんてアクロバティックな少女なんだ。


ルンバがぴゅーい、と口笛をふくと、スライムたちがうぞうぞと蠢いて河のど真ん中に集まり、なんと船のようにぷかりと浮かび上がった。


さすがルンバ、俺のダンジョンに初期からいたモンスターだけあって、何をやったらいいのかきちんと心得ている。

このスライムの船を利用すれば、移動は早いだろう。


探索者も青い顔をして、いまさらな質問をしていた。


「だ、大丈夫か……?」


「ああ、ルンバは俺のダンジョンに初期からいたスライムだ。ここにいるスライムはみんなルンバが分裂して生まれた個体だから、安心しろ」


さすが黙々と仕事をこなす我がダンジョンのアサシン。

インプたちのご飯にもなっているのに、俺も知らない間にこんなに増えていたのか。

味方ながら、恐ろしいモンスターである。


俺はスライムの船をつついている助さんと桃太郎に向き直った。


「いいか、助さん、桃太郎、ここから先は、2人で頑張るんだぞ」


「「えっ!?」」


助さんも桃太郎も、「えっ」という顔をした。眉毛犬が「えっ」という顔をするとくるものがある。


「ダンジョンを拡張するのはコボルトたちの役割だ。助さんは、桃太郎に指示を出してやってくれ。マップのこの辺りからダンジョンを拡張するんだ。できるな?」


「そ、そんな……核さんはどうするんです!?」


「俺は帰る。ダンボールは湿気ると柔らかくなるからな……あと、カビとか繁殖すると大変だ」


助さんは俺にしがみついて、涙をぼろぼろと流し始めた。


「核さん……私、核さんを1人きりになんてできないですよ?」


「心配するな、こっちには最強のダンボール・ゴーレム軍団とマヒルと花ちゃんがいる」


「せめてマヒルちゃんこっちにくれるんです!?」


マヒルは畑の拡大事業の真っ最中だったが、可愛い助さんの頼みだ、仕方がない。


急きょ、地下ダンジョン拡張へと担ぎ出されたマヒル。

いつも通りの眠たげな顔をしていたが、やる気は十分な様子だった。


「大丈夫……使えない指揮官と一般人をお守りしながらの行軍は基本だから……」


相当な修羅場をくぐってきたんだな、マヒル。わかるぞ。


そうして一行は、スライム船に乗り込み、河をさかのぼってスライム・ダンジョンの奥へと進んでいった。


……大丈夫だろうかな。


遠ざかっていくモンスターたちの姿を見送って、俺は一抹の不安を覚えるのだった。

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