第18話

「花ちゃん、お前には植物モンスターのリーダーとなってもらう。マンドラゴラ畑の成長を促し、犬をダメにする箱の大量出現を可能にするのだ」

「はい~、かしこまりましたぁ~」


にこっと笑う花ちゃん。

花がぽんぽん、ぽぽぽぽん、と花ちゃんのふんわりした笑顔の周りに咲く。

いい香りのする花からフェアリーたちが生まれて、ぱたぱたとダンジョン内部を漂っていた。

生まれたばかりで、この魔力の強さ。すでにリーダーの風格がにじみ出ている。

さすが魔法素材のマンドラゴラから生まれただけはある。


助さんは、その腕にぶらさがるようにしがみついて、ぶすーっと不満げだ。


「むー、助さんもリーダーなのですよ?」

「うふふ、そうですね~」


頭のぷるぷるしたベリーをなでなでされる助さん。

残念だったな、助さん。相手の方がお姉さんだぞ。


妖精のリーダー、助さん。

アンデッドのリーダー、マヒル。

犬のリーダー、桃太郎。

そして新たに植物のリーダー、花ちゃん。


この4人に俺の魔力を受け渡し、それぞれの担当モンスターにマナが分配されるようになれば、10メートル・ダンジョンの外の開発も進んでいくはずだ。

彼らに効率よく魔力を受け渡すために……俺のところに定期的に来てもらう必要もある。


「よし、これからは、みんな1週間に1回は集まって、焼肉パーティでもしよう」

「うわぁーい! 核さん、大好きなのですよー!?」


俺の提案に、助さんはすぐにご機嫌を取り戻すのだった。




俺専用機に搭乗した俺は、ダンジョンの外縁をぶらぶら散歩していた。


土を耕し、適当な大きさの畑を作って、そこにマンドラゴラの種をまいてゆく。

マンドラゴラが土壌の魔力を高めてくれるので、間に攻撃力の高い触手植物のマンイーターや、防御力の高いカボチャお化けのジャックオーランタンの種を蒔いて防護壁としての役割を高める。

怪樹トレントは、土地のマナをすごい早さで吸って強くなる。最初は弱いが、周辺の植物モンスターが倒されれば倒されるほど強くなるので、森の最後の砦である。


細かいところはスケルトンたちに手伝ってもらったが、岩や大木を除去するのは俺専用ゴーレムのお仕事だ。


ダンボール・ゴーレムの中は、日光のお陰で非常に暑くなっていた。

クーラーのファンがぶんぶん唸っているのだが、ひと仕事を終える頃には汗をかいていた。


「ふー。こんなもんかな」


マップで確認すると、10メートル・ダンジョンの八方を囲うようにしてマンドラゴラ畑が作られている。


早い方の畑はすでに深い森林と化していて、緑化活動は順調に進んでいるようだ。


10メートル・ダンジョンの周囲にはコボルトのダミー・ダンジョンが群れを成し、俺が命令しなくてもどんどん成長し続けている。


これらはみな、俺の小さなダンジョンの防護壁となってくれるはずだ。


だんだんと形を成してきた俺のダンジョン。

欲を言えば、ひとっぷろ浴びたいところだけどな……。

ダンジョンの核と化してからというもの、ときたまスライムが体を掃除してくれる以外は風呂にも入っていないのだった。


この辺に河を作られないか、と土木マスターのマヒルに相談をもちかけたところ、反対された。


「河は敵の侵入拠点となりやすいので、防衛機能の完全ではない今は作るべきではありません」


上流の木を切り倒して即席の船にすれば、素早く簡単に攻め込まれてしまう、という。


確かにそうかもしれないが、コボルトたちも暑そうに舌をだらんと伸ばしている。

せめて泉とか、温泉とか作られないだろうか……などと思っていた、そのときだった。


きゃんきゃん、きゃんきゃん!

犬のけたたましい叫び声が聞こえた。


「まさか……!」


犬が畑に踏み入ったのではないだろうか。

慌てて駆けつけると、犬がいままさに、腹のでっぷり膨れたマンイーター2匹と対峙しているところだった。

肉食植物マンイーターのそれぞれの口からは、草鞋を履いた男の足がにょっきりと生えていた。

犬はきゃんきゃん吠えて、そのマンイーターに体当たりをしている。


「お前らか……」


いつぞやの、ダンジョン探索者たちの再来である。





「不覚……この辺りはモンスターが少ないと思って油断しておったわ……。いつの間にこんな森が……」


ふふん、我がダンジョンは、日進月歩で成長しているんだぜ?


花ちゃんの命令で、マンドラゴラたちはダンジョン探索者たちを吐き出した。

発見が早かったので消化されていなかったようだ。顔中に塗りたくった迷彩も消えていなかった。


俺は俺専用機に搭乗した状態で、彼らの真正面に陣取っていた。


俺は彼らにとって、初めて見る、このダンジョンのボス的存在。

前回の探索では出会わなかった、謎の新素材ゴーレム、という認識なのだろう。


それだけではない、今日は焼肉パーティの日だったので、各リーダーたちが10メートル・ダンジョンに勢ぞろいしていた。


ひたすら肉を焼く助さん。

ひたすら肉を食う桃太郎。

肉を食べながら油断なく探索者たちに目を光らせているマヒル。

狭いダンジョンに色気を振りまいているお酌係の花ちゃん。


否が応でも、緊張が高まってくれない。


「お前たち……ひょっとして、こう思ってないか? 『ここは一体なんだ』」


俺が語り掛けると、びくっと、探索者たちは肩を震わせた。

思ってたな。


「単刀直入に言わせてもらおう……ここは先刻、お前たちが攻略しようとしたダンジョンの最深部。そして俺はお前たちが攻略しようとしている迷宮の核だ」


「な……!」


探索者たちは、素早く立ち上がろうとした。


それに対して、素早く武器を腰もとに引きつけたのはスパルトイのマヒルだけだった。


助さんはシイタケをのどに詰まらせ、桃太郎はへっへっへ、とだらしなく舌を伸ばしてのんびり見ていた。

花ちゃんは空気を壊さずに、にこにこ笑っている。


この程度では動揺しないか……みんな大物臭がするな。

俺も負けていられない。


「ああ……今のこれは、俺の仮の姿だ。ゆえあって、人前に姿を見せることは自重することにした」

「……貴様、一体何者だ?」

「俺の真の姿を見てもいいが……お前はそのとき、世にも恐ろしいものを目の当たりにすることになるだろう……」


ゾッとした表情を浮かべ、後ずさる探索者たち。


ふっ……。たぶんな。

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