第17話
俺専用機の投入によって、ダンジョン周辺の開墾は順調に進んだ。
翌日には芽が出ていたので、これならダンボールの収穫も早いだろう、と思ったのだが。
しかし、地面に植えた植物たちはなかなか成長してくれない。
「うーん、なかなか生まれないなぁ。これってマンドラゴラだよね?」
「マンドラゴラですよ?」
「マンドラゴラだよなぁ」
種を持ってきてくれたインプによると、そういう事らしい。
人型植物のマンドラゴラ。
魔術素材に使われることが多いと聞く。
要するに、かなりのマナをため込むのだ。
「変だな、マンドラゴラは自力でマナを生みだすから、マナの少ない土地でも育ちやすいって聞いてるんだけど……」
俺は、俺専用機のカメラを改造し、マナメーターを作った。
マナメーターは、周囲の魔力を測定する機能を持った、一般的な魔法道具だ。
それで畑を見渡してみると……案の定、土の魔力が薄い。
俺の体から出ている魔力も、どんどん土に吸い込まれていくみたいだった。
ダンジョンにたまった俺の異様な魔力によって、モンスターたちは生まれてきた。
いくらすぐそこに俺がいるとはいえ、ここダンジョンの外だ。
同じように生まれてくれるとは限らない。
「そういう時は、リーダーを決めるといいですよ?」
「リーダー?」
「はい、外のコボルトたちは、リーダーからマナをもらっているから元気なのですよ?」
そういえば、俺のところに訪れてくるのはいつも同じコボルトだった。
どうやら、リーダーとなるモンスターが核からマナをもらい、リーダーがその配下たちにマナを配る、というシステムになっているらしい。
なるほど。
広大なダンジョンはそういう仕組みで成り立っているのか。
これなら、かなり広範囲にモンスターを配置することも可能なわけだ。
コボルトのリーダーは、マンドラゴラを前足で掘り返そうとする犬たちを抱き上げて畑の外に逃がしてやっていた。
やさしい犬だ。
「そうだ、せっかくだからコボルト・リーダーに名前くらい付けてやろう。『桃太郎』、というのはどうだ?」
俺は目の前のコボルトに名前をつけた。
その瞬間、桃太郎は、めきめき成長してゆき、2メートル近い巨漢に変貌していった。
口がメキメキ音を立てて開いてゆき、凶悪な牙がぎらりと光った。
爪もぐんぐん伸びてきた。最初の俺の設定など完全に無視である。
もどして。全力でもどして。
「えーと、桃太郎に特性追加! 体格操作が可能! 普段は身長1メートル!」
ぽんっと煙を吹いて、桃太郎は1メートルのちっこい犬になった。
マジックで描いたような垂れ気味の眉毛がなんとも間抜けで可愛らしい。
「じゃあ、改めて植物系モンスターのリーダーが必要だな」
「……今のモンスターよりもダンボールが重要ですか」
「ああ、ゴーレムこそ我がダンジョンの主戦力のようなものだからな」
いまだに我がダンジョンのシステムに追い付いてこれないマヒルに対して、当然、という顔で頷いてみせる。
増えすぎる犬の増殖を抑え、犬の寝床にもなり、武具にもバリケードにもロボットにもなる。
まさに我がダンジョンの大黒柱だ。
「助さん、マンドラゴラって、ダンジョンの中でも育つ?」
「育つみたいですけど、日当たりが良くないと成長しにくいみたいですよ?」
「魔力と日当たり、どっちも必要ってことか……いちおう、どっちが早いか実験してみるか」
そう思って、マンドラゴラをひと株引き抜いてみた。
すると、人の形をしたダイコンみたいな植物の表面に、アリがびっしり引っ付いていた。
マンドラゴラが生み出す魔力をちゅうちゅうと吸っている。
お前のせいか、アリ――――――!!!
という訳で、畑にはアリ対策としてスライムを配置することになった。
優秀なスライムたちを畑に残し、俺たちは少しばかり成長したマンドラゴラを1株、ダンボール箱に入れて10メートル・ダンジョンへと持ち帰った。
「よし、合体解除!」
俺の合図とともに、『俺専用機』の特殊能力、『魔石と合体する』を解除する。
ダンボールの胸がぱかっとひらいて、もとの10メートル・ダンジョンの奥に俺は乗り移った。
どうやら、ここは周辺の魔力が集まりやすい場所だったようだ。
先ほど外で俺の振りまいた魔力が、大地を通じて俺の体に集まってくるのを感じる。
なんというか、温泉につかって冷えた体がじんじん温まってくる感じがする。
「あー、なんかダンジョンの壁と同化しているとすげぇ落ち着くわ……」
「ふふふ、核さんも、すっかりダンジョンの核らしくなってきたのですよ?」
えー。
それちょっと人間としてマズい気がするなー。
マンドラゴラの入ったダンボールをダンジョンのど真ん中に置いておいた。
さっそく犬たちがはふはふと入ろうとする。
「よし、マンドラゴラと……いや、待て」
「どうしたのです?」
「助さん、インプを呼んでくれないか」
俺はダンボールに入ろうとする犬たちを制し、代わりにインプのおっさんを呼んで、ダンボールに入ってもらった。
「新しいリーダーには畑の管理もしてもらいたいからな、植物の知識があるインプの方がいいだろう」
「さすが核さんなのですよ?」
感心する助さん。
ぱたん、とダンボールのふたが閉じられ、ガムテープでびーっと封がされた。
えっ、融合ってそうやるんだ。
俺はごくり、と息をのんだ。
初めて見る。これが、融合。
封がされたダンボールに、ぺたん、と付箋が貼られた。
送り人→インプ+マンドラゴラ
宛先→融合
ダンボールががたごと、と揺れ始めた。
俺の傍らにあった魔導白書が、まばゆい光を放った。
モンスター図鑑のページにあらたな1ページが刻まれる。
ニンフ
融合レシピ: 植物系モンスター + 妖精族
花と泉を司る妖精。
ダメな男をトラップにかけるのが得意。
「ふぁ~あぁ~、おはようございますぅ~」
頭の上に花が乗っかっている愛くるしい女の子が誕生した。
マンドラゴラがあんまり成長していなかったからか、思ったよりちっこい。
頭の上にイチゴを乗っけている助さんに匹敵する可愛さだった。
2人で並ばれると、まるで姉妹みたいでほっこりしてしまう。
「はじめまして~、ニンフです~」
「助さんなのですよ?」
「よろしくです~」
ぺこぺこお辞儀をして頭をごっつんとぶつけ合う2人。
脱力系女子2号の誕生である。
俺は、にやり、と笑った。
ふっ、計算通り……!
さすがインプ、可愛いモンスターの素材としては優秀だ……!
もはや原型がどんなモンスターだったかさえ忘れてしまいそうな勢いだぜ……!
「よし、今からお前に名前をつける。お前の名は、花ちゃんだ!」
「はい~」
直後に、花ちゃんは凄まじい光を放った。
1メートルぽっちだった体がぐんぐん成長してゆき、髪はぶわっと伸びた。
足はスカートの裾が追い付かなくなるぐらいするすると伸びて、胸は服を引きちぎらんばかりに膨らんでいく。
「あら~、あらあら~」
どんどん強化されて、一気に大人に成長してしまったらしかった。
助さんは目が点になっている。
……ごめん、これは計算違いだったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます