第16話
こうして、スパルトイのマヒル指揮のもと、10メートル・ダンジョンの周辺の開墾がはじまった。
武具から生み出したスケルトン軍団、総勢30名が開墾作業にあたる。
基地の設営や開拓も兵士たちのお仕事なので、こういった作業もマヒルはお手の物であった。
「スケルトン部隊、前へー!」
ざっ、という足音に混じって、骨がぶつかるカラン、という音がする。
錆びた武具を身につけたスケルトンたちの部隊だ。
歩く骨なので、非常に無口。
ひたすら命令に従って動く。
それ以外の音は一切しない。
マヒルにダンボールを10枚ほど渡すと、器用に切り取って人数分のスコップやつるはしをつくっていた。
これを使って、地面に落ちている大きな石や木の根っこを除去していくのだという。
当然ながら、10メートル・ダンジョンの奥の壁と同化している俺は、外から聞こえてくる声を聞いているしかなかった。
「コボルト部隊、保水マット展開ー!」
はふはふ、というコボルトたちの声が聞こえてきた。
土壌が乾きやすいので、保水性の高いダンボールを地面にしくよう指導したのだ。
ふつうは藁の方が安上りなのだけど、藁が手元にないのでダンボールで代用だ。
まったく万能素材すぎる。
ダンボールってチート素材じゃないか。
「気を付けろ、慎重にひくのだぞ!」
マヒルは、危険な兵器かなにかを扱うようにコボルトたちに指示を出していた。
油断するとダンボールをかじってしまうらしい。やっぱり犬だなぁ。
「インプ部隊、種うえ、水まきはじめー!」
ダンボール・マットには、ところどころに丸い穴をあけている。
穴から土壌が見えているため、そこに種をまいていく。
どんな植物を蒔くかは助さんに一任してある。
ここは、植物の妖精であるインプの活躍する場面だ。
「森と言えば人面樹かトレントなんですけど、まずはマンドラゴラで土壌を改善しないとですよね」
と言っていた。
さすが助さん、頼りになるナビゲーターである。
空から水を撒いていって、緑化活動はひとまず完了であった。
果たして、うちのダメモンスターがちゃんとお仕事できるのだろうか?
「……こ、こら! 入って来るな、犬! ダンボールを齧るな! おもちゃじゃないんだぞー! こらー! コボルト! 私の背中におぶさってくるなー! きゃー! インプ、私に水をかけるなー!」
……きゃっきゃっと楽し気な笑い声が聞こえてくる。
見たい。
ものすごく見たい。
しかし、俺のすぐそばにいるのは黙々と掃除を続けるスライムと、当ダンジョン最強のダンボール・ゴーレムが1体だけであった。
このゴーレムが外に出ることができれば、もっと作業ははかどるだろうのに。
けれども、いつ冒険者に攻め込まれるかわからないからな。
こいつは核の俺から離れることができないし、俺は壁から離れることができない。
……どうにかして、俺がダンボール・ゴーレムに乗って外に行けないだろうか?
そう考えた俺は、ふと妙案を思いついた。
「よし……ダンボール・ゴーレム、お前に名前をつけてやる! ……お前の名前は、『俺専用機』だ!」
ダンボール・ゴーレムの両目が、びかっと光を放った。
固有名、『俺専用機』と名付けられたゴーレムは、ぐぐっと体が大きく成長していった。
いいぞ、さらにもう一段階進化できそうだ。
「特殊スキル『合体』を強化……特殊スキル『魔石と合体ができる』を持つ!」
次の瞬間、ゴーレムの体に俺の体が吸い込まれていった。
魔石と化した俺の体とゴーレムが合体したのだ。
岩壁からはがれた俺は、気が付くとゴーレムの体内に収納されていた。
目を開くと、ダンボールの中である。
ダンボールのにおいがする。まるでダンボールの基地みたいだった。
ううむ、なにも見えないな。
これじゃダメだ、と思った俺は、『俺専用機』の特性をさらに書き換えていった。
「外の様子を監視するカメラとモニターを内臓! 残り魔力を示す魔力メーターを表示! エアコン、冷蔵庫完備! 自在に操作することのできるコントローラーを設置!」
さらに特性、『特性を自由に書き換えられる』を持つ。
つまり、後で自由に内装をカスタマイズすることだって可能だ!
満を持して外に出ようとすると、10メートル・ダンジョンの入り口が狭すぎて、ばこおぉん、と破壊しながら外に出ることになった。
きゃんきゃん、きゃんきゃん!
足下で犬たちがはしゃぎまわっていた。
臭いでこいつらの大好きなダンボールだってわかるんだろう。
ちょっと警戒して牙をむいている気がするのは俺の気のせいだよな?
ダンボール・ゴーレムの身長は3メートル。
以前の俺の視界をさらに上回る高さから見晴らすことができた。
かなり壮観である。
遠くで畑を作っているモンスターたちが見えた。
俺は内装をいじって、拡声器をつけてやった。
「ははは、お前たち、手伝いに来てやったぞ!」
なにか口々に騒いでいるが、遠すぎて聞き取れない。
ダンボール・ゴーレムの背中にバーニアを設置し、炎をぶわっと噴出させた。
ダンボール素材なので軽い軽い。俺は軽々と飛び上がって畑のど真ん中に降り立った。
「核さん、すごい、さすがですよ!?」
じょうろを持った助さんは大はしゃぎしている。
コボルトたちも、わおーん、と遠吠えをはじめた。
俺はスケルトンたちが悪戦苦闘していた巨大な岩を担ぐと、ぶーんとはるか遠くまで投げてやった。
スケルトンたちの指揮をとっていたマヒルは、指揮棒をぽとり、と足元に落とした。
「だ、ダンボールって、一体……」
そこは突っ込んじゃダメだ。
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