第15話

さっそく10メートル・ダンジョンにちらかっていた武具を使って、働き手となるアンデッドを生成してゆくことにした俺。


しかし、この狭い部屋でゾンビ系モンスターを蘇らせることに気が引けた。

なんせ10メートルしかない居住空間だ。


対して、ゾンビ系モンスターはすごくにおう。

におうとなんか嫌だ。

俺は外に出られないし、犬が嫌がって入ってこなくなるともっとショックだ。


スケルトンなら骨だ、そんなににおいはしないだろう。

ということで、生み出すモンスターはスケルトンに決定した。


歩くことと、標的を探すこと、剣を振ることしかできないモンスターだと図鑑に書いてあった。

剣の代わりに、土を掘り返す道具を持たせれば、畑を作ることぐらいはできるだろう。


「これから、俺は兵士たちをスケルトンとして蘇らせようと考えている。マヒル、お前はそれを指揮するリーダーとなれ」

「ははっ、かしこまりまして、ござりまする」


俺の命令に、2つ返事でこたえるマヒル。

ふむ、いい返事だ。


「必要分のスケルトンをお貸しくだされば、必ずや、このダンジョンを防衛しきってみせます」

「えっ、そんな事もできるの? スケルトンはあんまり複雑な命令は聞かないみたいだけど」

「はい、防衛には、さほど複雑な命令は必要ありません」


マヒルは言った。

農民を兵士に徴用することが多いので、もともと複雑な命令は使わないのだそうだ。


必要な分の人員さえ集めることができれば、大抵のことはできる。


むしろ、人間の兵士の場合は食糧が必要だけど、アンデッドには必要ないから、防衛には最適なのだという。


「巡回兵士よりも、重要なのは物見やぐらや鳴子などの設備です」


「なるほどなぁ」


さすがマヒル。

土気色の顔をしているのに、考えがよくまとまっている。


けれど、俺は別に見張りを頼みたいわけじゃないんだ。


「土を耕して、森を作ってもらいたいんだけど。できる?」


「森ですか」


マヒルは無表情だったけれど、戸惑っているのがありありとわかった。


「森ですか」


2回聞かれた。

うん、ごめんな、無茶ぶりだったよな。


「助さん、例の装備をマヒルにもあげてくれ」

「はいなのですよ?」


森を作ることの重要性を理解してもらうために、俺はマヒルに当ダンジョン最強の装備一式を渡した。


「これは……」

「これが、当ダンジョン最強の装備だ」


装備を手にしたマヒルは、おもちゃのような見た目に騙されない。

瞬時にその性能を理解した賢い子だった。


「強いですね、この剣……」

「わかるか……」

「はい、この軽さで、この強度……身に着ける兵士次第で、銅や鉄を上回る戦闘能力を発揮できるでしょう」

「ふふふ……ああ、まったくもってその通りだとも」

「いったいなんという素材なのでしょう?」

「素材?」


犬をダメにする箱を生み出したのは俺だけど、その辺の設定は適当だった。

モンスター図鑑にも空白が広がっている。

むーん、と、俺は頭を捻った。

ダンボールの設定か……。どうすべきか……。


「呪符を使った新素材だ」

「なんと、呪符……! 紙でできているというのか……! これが……!」


マヒルは驚愕に目を見開いていた。

くくく。

この世界の人たちはダンボールを知らないからな。


「なるほど、最初は犬の寝床のようなにおいがすると思っていたが……これはよもや、聖獣の加護を授けたのでありましょうか?」

「ふふふ、わかるか」

「やはり……!」


犬の毛とかいっぱいついているけどな。

あれでけっこう優秀なヒーラーだからな、なんかの加護はあるかもしれない。


そういえば、犬の特性は俺が自由に決められるんだった。


「マヒル、お前は二階級特進だ。今日からマヒル少尉だ」

「へっ……!?」


マヒルは目を白黒させていた。

そうだ、犬の毛にもなんかの特性をつけたら、ダンボールをもっと強化できるじゃないか。

さすがマヒル、そのアイデアいただき。


「いずれ、大量生産をする必要がある。そのためにも、森が必要なのだ……お前にまかせた任務の重要性が、わかるな?」


「ははっ、身に余る光栄……! ありがたく、拝命いたしまする……!」


頭を下げるマヒル。

心強い味方を手に入れ、俺はひそかに笑うのだった。

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