第14話

「核さん、あんまりダンボールを使っちゃダメですよ?」


「うーん、そうだよなぁ」


可愛いコボルトたちに次々と褒美を与えていると、助さんにも怒られてしまった。


この10メートル・ダンジョン最後の砦である、ダンボール・ゴーレム。

彼が最強たるゆえんは、いたるところにある犬をダメにする箱と合体する能力にあった。


箱をコボルトたちの装備にして、強化していくのはいいのだが。

いざという時、ゴーレムの戦闘能力が落ちてしまうのも考え物だ。

なんとかならないか。


「犬をダメにする箱をもっと増やしたいな……モンスターって、どうやったら増えるんだろう?」


「もっと素材を集めたらいいんですよ?」


「素材?」


「ダンジョンに素材が多いほど、モンスターはたくさん生まれるんですよ?」


なるほど、それはいいことを聞いた。


アリが異様にたくさん生まれてきたのは、アリの素材が岩だったからのようだ。


正確にはアリではなく、ミミックという物質に擬態するモンスターだったらしい。

ダンジョンの小石が動き出したのである。


で、ダンボール・ゴーレムの素材は紙。


ここは草原地帯だから、草のお陰である程度は生まれてきたみたいだが、それでも岩が素材となるアリに比べると遅い。


ダンボールの大量生産には、大量の植物、すなわち森が必要なのだ。


森づくりからはじめるしかない。


ダンジョンって、いったいなんだろう。


「じゃあ、また新しいモンスターが必要だな。……助さん、こういうガラクタを素材にして、何かモンスターができるんだろうか?」


「古い武具なら、アンデッドを生み出すこともできるのですよ?」


「ほうほう、アンデッドか……それはまた、おあつらえ向きじゃないか」


コボルトたちには、このままダンジョンの拡張を担当してもらう。

そして拾ってきた武具でアンデッドたちを生み出し、地上の開発にあたらせるんだ。


周囲に森が広がれば、この10メートルしかないダンジョンを冒険者たちの目から覆い隠してくれる。

そのままアンデッドたちに森を維持させれば、強固な防壁にもなってくれるはずだ。


「いいね、さっそく作ろう。一番立派な装備はない?」


「一番立派な装備ですか?」


「たぶん、それがリーダーだ」


複数のアンデッドを動かすには、アンデッドのリーダーが必要だ。


とりあえずリーダーを決めておこう。


一番立派な装備を身に着けているのがリーダーだ。


すると、助さんは『伍長』と書かれたネームタグを見つけた。


名前も書いてある。


Machel


「マヒル……マチェール……いや、メイシェル……?」


3つとも正しい読み方ではある。

ローマ字と一緒で、味方国と敵国、あと遠くの共和国とでも、読み方が違った。


味方国語は、外国人が覚えやすいように作られた人工言語だ。

遥か遠くの新興国でも通じる。

方言をもとになんども改良されていて、日本語並みに発音数が少ない。

俺も覚えやすくて助かった。


敵国語は、昔ながらの帝都で使われていた古語。

かつて帝国の領地だった、さまざまな国で通じる言語だ。

公式文書なんかは今でもこれを使っていて、敵国語を知らないと読めない魔導書なんかもあった。


共和国語は、もっと古い時代にエルフも使っていたという古代語を使っている。

エルフ、ドワーフ、竜族と言葉が通じる。

他の言語にはない魅力がある。


Machelの鎧は、味方国なんだよな?

けれど、共和国からやってきた援軍という可能性もあるし。

敵国のスパイって可能性もゼロじゃない。


まあ、俺のすきな呼び方でいいか。

マヒルでいいや。


「マヒルよ……甦れ……海底摸月(ライジング・ムーン・オブ・ザ・ディープ・ウォーター)ッ!」


ダンジョンの核の能力、モンスター創造を発動する。

兜が浮かび上がった。


周辺の塵や小石、虫、金属片、さまざまなものが混ぜ合わさり、兜の下に顔を作った。


この装備の記憶をもとに、持ち主の骨格、人格、体格、あらゆる情報を再現してゆく。


出来上がった人の形をしたものに、小さな精霊たちがやどって、少しずつ生きた血肉になってゆく。


出来上がった血と肉の塊に、マヒル本人の魂が吹き込まれる。


表面がつるっと仕上がり、綺麗な肌の女の子に生まれ変わった。


「御前に。マスター」


マヒルは俺に跪いた。

うん、素晴らしい出来栄えだ。


「マヒル」

「はい、マスター」


じっと、真面目な目で見上げてくるマヒル。

うん、いい。

俺の前にニンジャ座りしている女戦士。

太ももが、こう、じつにいい感じにたわんでいる。


「さて、マヒル。お前の名前はマヒルでいいよな?」

「はい、マスターのマヒルでございます」


無表情だが、真摯に答えてくれるマヒル。

ああ、いい。すごくいい。


種族名、スパルトイ。

ゾンビナイトの上位モンスターだ。


攻撃力:ゾンビナイト12体ぶん。

防御力:ゾンビナイト15体ぶん。


ゾンビナイトの強さがわからないが、これは強い。

助さんも、おおー、と言ってぱちぱち手をたたいている。

わかるぜ、見たことのないモンスターなんだもんな?

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