第13話

初防衛に成功した翌日、俺のダンジョンに珍客があらわれた。

俺は魔導書を助さんにめくってもらいながら、10メートル・ダンジョンに設置できそうな罠を調べているところだった。


「核さん、核さん」

「なんだ、助さん」

「お客さんみたいですよ?」


ひょこひょこ


ダンジョンの入り口から2匹の犬が顔をのぞかせて、こっちの様子をうかがっている。


「こんなお客さんなら大歓迎だ。おいで、おいで」


目を輝かせて、しっぽをふりふりしてやってくる犬たち。

ふむ、犬種はポメラニアンみたいだけど、こんな犬いたっけ……いや、あれは……。犬?


なんと、しっかり二足歩行でよちよちと歩いているではないか。

まるで背のちっこい、毛むくじゃらのこびとみたいな犬が歩いてきて、俺の肩にぽんっと手を置いて、俺の顔をぺろぺろ舐め始めた。


「助さん……こんな犬うちにいたっけ?」

「コボルトですよ?」

「コボルトなんて、うちにいなかったんじゃないかな……野生だとしても、この辺にはそもそもモンスターがいなかったような……」

「犬とインプが融合すると、コボルトが生まれるみたいですよ?」


助さんが、魔導書を読んで解説してくれた。

オリジナルモンスターである犬のページに、いつの間にか解説が加わっている。


融合レシピ:犬系モンスター + 妖精族 → コボルト


なるほど。

外で勝手に融合しちゃったんだな。


犬をダメにする箱には、モンスター同士を融合してしまうスキルを持たせていたんだ。

たまたま一緒の箱に入って寝てしまったんだろう。


分裂しすぎた犬を減らす目的だったんだけど、ちゃんとスキル本来の仕事も果たしたというわけだな。よしよし。


「ほほぅ、犬とインプが一緒の箱に入って、生まれたのがコボルト、というわけか。しかしまぁ」


しかし、かわいい犬と緑色のおっさんインプが一緒に寝て生まれたってことだろ。

けしからんな。


せめて可愛いベリー・インプの女の子と犬が一緒に寝て生まれたのなら許せたかもしれんが。

いや、想像してみると、もっとけしからん。


「それで、コボルトたち。一体どうしたんだ?」


コボルトたちは、どこからか拾ってきたらしい錆びた剣や兜、槍なんかを俺に見せてくれた。


「地面を掘ったら、こんなアイテムが出てきたみたいですよ?」


「ははは、ありがとう」


どうやら、俺にプレゼントしてくれるつもりらしい。可愛いモンスターたちだ。


コボルトは鉱山に住むモンスターで、穴を掘ってダンジョンをどんどん拡張していく習性がある。


当ダンジョンのようなちいさな迷宮には、とても頼もしいモンスターである。


ここの地面を掘ると、昔の戦争で使われた武具や塹壕なんかがたくさん出てくるんだよな。

ずーっと両国の緩衝地帯で、奪ったり奪われたりを繰り返していた土地だ。


けれど、俺にはあんまり必要のないアイテムだ。

ゴブリンみたいなのはそういうのを装備しているって聞くけど、俺のモンスターたちに装備させるつもりもない。


なんせ、こっちには万能素材があるからだ。


「助さん、俺の魔導書を開いて、ペーパークラフト、兜と剣で検索してみてくれ」


「わかりましたですよ?」


「コボルトたちに、お礼のアイテムをあげよう」


魔導書に浮かび上がったページには、組み合わせると兜になるパーツの設計図が書かれていた。


助さんやコボルトたちが、それをダンボールの上にぺたり、とのせて、黒い線に沿ってカッターナイフで切れ込みを入れていく。


出来上がったパーツを組み立てると、最高強度の兜の完成だ。


コボルトたちに、ダンボールの剣とダンボールの盾、ダンボールの兜をあたえてみた。


やべぇぇぇ! くっそかわいいいいい!


インプってなに?

どうして? どうして、あんなむさいおっさんからこんなカワイイモンスターばっかり生まれてくるの?

ほんと謎なんだけど?


剣もセットで作ってあげると、コボルトたちは大はしゃぎでそれを振り回していた。


「もっとアイテムを掘ってきてくれたら、また新しいのをあげるよ」


俺の言ったことがわかったのか、「わん!」とひと声ほえた。

てててて、と去っていくコボルトたち。


近所に住んでいる子供みたいだ。可愛いなぁ。


にこにこしながら見送っていると、ふたたび、てててて、と戻ってきた。


武具、武具、武具、武具、武具ばっかり。


どうやら、錆びた武具をいっぱい持ってきてくれたらしい。


予想はしていたけどな……。

もっと便利なアイテムはなかったのか。


10メートル・ダンジョンは、コボルトたちの拾ってきたガラクタであっという間に埋め尽くされてしまった。


うーむ、どうしようか、これ……。

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