第11話

未来像を思いえがきながら、俺がくつくつ、と笑うと、魔法使いちゃんは涙目になり、スカートからじょろじょろと黄色い液体を漏らしてしまっていた。


あ、ごめん。笑っただけなんだよ。そんなに怖い顔になってるとは思わなかった。


助さんが怪訝そうな目つきをして、俺にひそひそと耳打ちをしはじめた。


「あの女、核さんにセックス・アピールをしているんです?」


「人間はそんな方法でセックス・アピールしないぞ、助さん」


なにそれ、インプの風習にものすごく興味が湧いてきたんだが。

俺は咳ばらいをした。


「ときに、魔法使い……」


「は、はひぃっ!」


「名前は何という?」


「ラミ、ラミ、ラミラミ……ラミルカ……です!」


ラミルカか……。

騎士の鎧を身に着けているが、職業は元冒険者で間違いないな。


聞けば、つい先ほどの戦争で武功をあげて騎士に叙勲されたのだそうだ。

戦争が終わって、この緩衝地帯に敗残兵がいないか、現地調査をしていたところだという。

そうか、さあこれからという時に、それはさぞ悔しい思いをしただろう。


「う、うちのリーダーが男爵の位を与えられて、この辺の土地を貰い受けたんです……その流れでパーティの私たちもぜんいん召し抱えになって……」


「えっ」


えーっ。

じゃあ、この土地、もうアシュレーの土地じゃなくなったの?

その男爵の土地なの。じゃあ頑張って迷宮都市にしてやる意味ないじゃん。


けれど、それは考えようによってはチャンスかもしれない。

つまり、相手は冒険者上がりだ。

すくなくとも、この辺りに土地勘のある連中ではない、ということだ。


「ラミルカ……お前を地上(すぐ後ろ)に返してやってもいい……」


「えっ、ほっ、本当ですか!?」


「ただし、条件がある……1つだけやってもらいたい仕事がある、それをそつなくこなしてくれれば、お前を解放してやろう」


「ご、ごくり……」




そうして、俺はラミルカを迷宮から解放してやった。


ラミルカは俺との約束通り、助さんに火炎魔法を教えてくれた。


炎を生み出すには呪文で足りるが、炎をうまく操作するには、体の動作が非常に大切だ。


炎のダンスは左右の手の指先を立てて、恋ダンスみたいに前後させるのだが、実際に見せてやらないとなかなか難しい。


恋ダンスを覚えた助さんは、インプのおっさんたちにも恋ダンスをレクチャーしていた。

非常になごむ光景である。


恋ダンスを覚えたインプたちはダンジョンの外に出て、その辺の草むらにぼっかんぼっかんぶっ放して、大きな穴をあけていた。


洞窟の周辺に、似たようなダミーの穴ぼこを数十個作らせた。


洞窟をすぐに拡張するのは難しいが、これならいい目くらましになるだろう。


穴の中には、それぞれ犬とインプのおっさんに住んでもらうことにした。


迷宮の核の俺とさほど離れていないため、ダミーの穴ぼこでも生活できるようだ。


モンスターが一気に減って寂しくなった我が家である。

これでしばらくの間は、のんびり生活ができるはずだ……。


と、思っていたんだがなぁ。




「核さん! た、大変です、また冒険者たちが、来たんですよ!?」


「……あったぞ、目印がつけてある」


新たな冒険者たちが、迷宮の出入り口に現れた。

……ラミルカ、あんちくしょう。

帰り際に目印をつけていきやがった。

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