第10話
俺は現在このダンジョンを構成しているモンスターたちを集めて、緊急会議を開いた。
ダンジョンの拡張は目下の課題だったが、あまりそちらにばかり魔力を使いこんでもよくない。
現在のこちらの主な戦力と言えば、
ダンボール・ゴーレム(当ダンジョン最初にして最後の壁、みんなが頼りにしている戦闘係)
進化犬(いつもニコニコ、元気いっぱい走り回る回復係)
アリ(普段はイヤな奴だけど超実力派、魔法ジャミング係)
スライム(淡々と仕事をこなす、クールなアサシン係)
インプ&ベリー・インプ(空気なおっさん&脱力系女の子枠、しつこい訪問客をのらりくらりとかわしてくれる接待係)
ぐらいである。
驚いたことに、偶然にも5人パーティ構成みたいになっていた。
ダンジョンってなんなんだろ。
「けど、これじゃ、まだ弱いかなー」
「弱いです?」
「もっとスキルや魔法が増えたら戦略の幅が広がると思うんだ」
「私、魔法いっぱい勉強しましたよ?」
「あ……うん、そうだよな、すごいよな、助さんは」
「えへへーなのですよ?」
にこにこする助さん。
頭の上のぷるぷるしたベリーをなでてあげたい。
けれども、俺の腕は壁と同化してしまっているため、それはできないのだった。
腕さえ動けば、俺も魔法を使えるんだけどな。
この世界の魔法は、言葉だけじゃ使えないんだ。
言葉は見えない力を操り、指先は見える力を操る。
たとえ言葉で見えない力から火を生み出しても、目に見える火を自在に操るには手が必要だ。でなきゃ俺が燃えてしまう。
俺はどうしたものかと思案して、とりあえず魔法使いちゃんにちらっと目配せした。
蓋と底を開いたダンボールに上半身を捕縛され、ダンボール・ガンダムみたいになった魔法使いちゃんは、びくっと体を震わせた。
青ざめている。
そういえば、岩と一体化している俺の顔って一体どうなってんのかな。まあ、考えるだけ無駄だし、いいや。
「そういや、戦争ってどうなったの?」
「あ……え?」
魔法使いちゃんに人間の世界のことを尋ねてみたら、意外な顔をされた。
彼女には、俺がいったい何者なのか、まったく説明していないからな。
ダンジョンの入り口付近の壁に張り付いている変な男、という認識なのかもしれない。
このダンジョンの核だ、なんて言ったら危ない気がするし。
味方国が戦争に勝った、というのは分かってる。
俺が野望を成就するために、アシュレーを通じてこれまで数々のチート技術を提供してきたんだ。
魔導白書の特殊インクひとつとってみても、戦争に応用すれば敵の秘密文章を盗み放題のとんでもないテクノロジーである、これで勝てない方がおかしい。
けれど、俺がいなくなった後のアシュレーがどうなったかは、非常に気になるところである。
「答えてくれないなら、アンデッド化してから聞き出すっていう手もあるけど……」
「こ、答えます! 答えさせてくださいぃ!」
ブラフだったんだが、想像以上に効果ばつぐんだった。
やはり、戦勝国は味方国で間違いなかった様子だ。
俺に関係することと言えば、アシュレーの領土である辺境領の領土がわずかながら増えたらしい。
前線地、つまり、ここの土地を手に入れたそうだ。
敵国から奪った領土を褒美に与えられるのは、ごく普通の事である。
だが……不満がないわけでもない。
「ここって、なんにもない土地なんだよなー……」
敵国と味方国が、戦争のたびに奪っては奪い返していた土地。
その中でも、奪われてもさほど痛くない広々とした草原地帯なのだった。
農業で都市部の人口を支えられるような肥沃な土地があるわけでもなければ、船で貿易をするための水路もない。
売り物になるような金の鉱脈が眠っている訳でもなければ、人を呼べるほど風光明媚な大自然があるわけでもない。
たまに戦争が起きるし、国籍がころころ変わる、特に名産もない簡素な村がぽつぽつとあるだけ。
唯一の利点と言えば、出現するモンスターが弱いということぐらいだろうかな。
マナが集まりにくいんだ。
現地調査しにきた冒険者たちも、こんな何もないところに迷宮ができていて、さぞ驚いただろう。
しかし、こんな土地の領主を任されたアシュレーも、不憫な事である。
彼女をシンデレラガールとして成功させた俺としては、なんとかしてやりたい。
そうだ、せめて、ここいら一帯を迷宮都市に生まれ変わらせることはできないだろうか?
この10メートル・ダンジョンをもっと拡張させていけば、俺の魔力を封じた魔石がごろごろ産出される、立派な迷宮へと生まれ変わるだろう。
そうなると、ここには冒険者が集まってくる。冒険者を相手に商売をするために商人が集まり、商人を相手に商売をするためにもっと人が集まり、そして迷宮都市が生まれる。
神から授かりし、俺の魔力Maxをうまく利用すれば。
いずれ、この辺境領を支えるほどの巨大な魔石生産地へと変貌させることができるんじゃなかろうか。
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