第9話
役人たちの悲鳴がこだました。
ダンジョンの入り口付近に、突然3メートルの大男が現れたのだからな。
「うっ……うわぁぁぁッ!?」
「なんだ、このモンスター!?」
役人たちが慌てふためいて逃げ出す。
入り口付近で見張りをしていた2人が前に出てきて、合流した。
どうやら、先に進んでいたのはトラップの解除が得意なシーフと、アタッカーの剣士だったようだ。
後衛は防御専門の盾戦士、そして魔法攻撃の得意な魔法使いと続く。
剣士は剣をぞろり、と抜き放つと、盾戦士と合流してダンボール・ゴーレムと対峙した。
どんな大男だろうと、人間で3メートルの巨人と対格差でかなう者は皆無。
リーチが人間離れしている。
2メートルもの長さをもつダンボールの剣を振り回されて、シーフがダンジョンの外まで吹っ飛ばされていった。
強いぞ、ダンボール・ゴーレム。
「新型ゴーレムか!?」
「ちくしょう、一体何の素材でできてやがる!」
役人たちは大剣をくぐりぬけて、果敢に攻撃を重ねていった。
ダンボール・ゴーレムは強い。
おまけに、いくら攻撃を受けても、進化犬がぺろぺろ舐めることで、その傷口はみるみる塞がれていった。
そういやすっかり忘れてたけど、進化犬はヒール能力を持っていたんだった。
ここに来て目覚めた、素晴らしい連携プレーである。
「どいて……! 魔法を使うわ!」
そのうち、魔力の流れが急速に変わっていくのを感じた。
俺にしがみついていた助さんが、真っ赤な光を指さしてにゃあにゃあと言う。
「あーっ!?……あの人、魔法を使いますよ!?」
「うん、分かってるよ、助さん」
一応、モンスター図鑑でゴーレムのスペックを再確認する。
弱点属性:なし
魔法耐性:高め
上級魔法をうけて、HPが半分残れば魔法耐性が高い、と見なされる。
果たして、ダンボール・ゴーレムの魔法耐性はいかほどのものか。
「炎よ、花よ、猛る竜よ……! 全ての赤き物どもは、九頭竜王の御前に集え……ッ! 九蓮宝燈 《エニア・フレイム》ーッ!」
花びらを飛ばす可憐な火の玉が、数珠のように連なってぐるぐる旋回し、ゴーレムに連続で突っ込んでいった。
俺と助さんのすぐ真上で真っ赤な火の粉を散らした。
核の俺に当たりそうな攻撃である。今のはひやっとした。
ダンボール・ゴーレムは、と見ると、なんと先ほどの一撃で肩が大きくえぐれ、ぶすぶすと焼け焦げてしまっている。
ちょっと、直撃じゃんよ、魔法使いちゃん。手加減してあげてよ。
進化犬たちが必死に回復に回っているが、どうやら間に合いそうにない。
「効いているぞ! もう一発だ、魔法使い!」
「ちょっと、そんなに連発できる
そのとき、魔法使いちゃんの全身にみなぎっていた魔力が一気に薄れていった。
よく見ると、彼女の足元に群がっている無数の小さなアリに魔力が吸収されているようだった。
ひょっとすると、10メートル・ダンジョンにおいて最強の種族かもしれないアリ。
魔法使いちゃんは、ありとあらゆる魔法で一掃しようと試みているみたいだけど、無駄な努力だ。
なんせそいつらは冒険者たちはおろか、住んでる俺たちでさえ毎日頑張って倒しまくっているのに、いっこうに居なくならないんだからな!
「いや、なにこれ……ぶふっ!」
魔法使いちゃんがひるんだところに、天井からスライムが降ってきて、顔を粘液性の体で包み込んだ。
ナイスだ、スライム・ルンバ。
一体いままでどこにいたのかと思ったが、ずっとこのタイミングを狙っていたんだな。
魔法使いちゃんはじたばた暴れていたが、顔をスライムに覆われて呪文を唱えることもできない。
やがて窒息したのか、手足を伸ばして失神してしまった。
他の戦士たちは、ダンボール・ゴーレムの圧倒的な戦闘能力に押され気味になっていた。
スキルの切れが悪い。そこまで探索を続けていたわけでもないのに、もう疲れて切っている。
一体、どういう事だ。
魔力の流れに注意して、じっと目を凝らしてみると、インプのおっさんたちが彼らの周りをうろちょろと飛び回っている。
そうか、妖精だから姿を見えなくできるんだ。それで耳元でささやいて彼らの気を散らしているみたいだ。
助さんも一緒に飛んで、「にゅんにゅん♪」と歌いながら両手から白い靄のようなものを放っている。
低級だけど、あれは幻惑魔法だな。
それが戦士たちの動きを微妙に妨害して、無駄に疲れさせているんだ。
すごいぞ、モンスターたち!
「ヤバい……撤退だ!」
「くっそ、入り口付近でこのレベル……こりゃあとんでもない迷宮だぞ!」
などと喚き散らしながら、役人たちは去っていった。
ふっ……勝った。
10メートルしかないダンジョン防衛なんて無理ゲーだと思っていた俺だったが。
なんとか初防衛に成功したのだった。
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