第5話

もともとインプは『枝』の妖精だったそうだ。

それが進化したベリー・インプは、『果実』の妖精であるらしい。


白い髪は、根元に行くほどピンク色に染まっており、ベリーの名の通り、頭のてっぺんにイチゴの切り身を帽子のように乗っけている。


エルフよりも肌は黄色みがかっていて、全体的にショートケーキみたいだった。

色んな意味でテーブルの上に乗っかりそうな女の子である。


「も、元に戻す方法は……知らないのですよ?」


「そ、そうか……それは悪いことをしたな……」


俺は、とりあえず犬を見て心を和ませることにした。

例えるなら今の心境は、真面目な友人がシナリオを書いたギャルゲをやらされているときのような。

これって素直に萌えていいんだろうか、的な。

カワイイ美少女の中身は、どうして十中八九、おっさんなのか。


「ベリー・インプはベリー・インプとしか子供を作られないのですよ? こうなったら、核さんに子供を作ってもらうしかないのですよ?」


「そ、そのうちなんとかするから……」


美少女化した助さんと気まずいダンジョン生活を送ること、しばし。

なにやらダンジョンが騒がしくなってきた。


きゃんきゃん、きゃんきゃんきゃん


どうやら、進化犬がお互いに喧嘩をはじめたらしい。

牙をむいて、あぐあぐ噛みあう犬たち。


前足を振り上げて一気に振り下ろすと、ばごんっと岩壁がえぐれる。

凄まじい破壊力だった。


「お、おい……犬、強くなってないか?」


「レベルアップして戦闘力が強くなったのですよ?」


どうやら、お互いに喧嘩しているうちにレベルアップしてしまったようだ。

それは困る。あの破壊力抜群の前足で甘えられたら確実に破壊される。


「エサのアリが少なくなって、縄張り争いをはじめたのですよ?」


「犬が増えすぎたのか?」


「天敵がいないモンスターは、どんどん増えていく一方なのですよ?」


「犬を食べるモンスターを作らなきゃ、数のバランスがとれないってこと?」


助さんは、こくん、とうなずいた。

えー。

犬を食べるモンスターなんて、作りたくないんですけど……。

うち、こんな狭いダンジョンなんだよ?

目の前で犬を食べさせるなんてできないじゃん……。


弱った。

要するに、「分裂」の増殖能力が高すぎたんだ。


なんとか分裂に抵抗できるモンスターを作られないものか。

そうして考えた末に、俺の魔力も再びたまってきたころ、新たなモンスターを創造した。


「よし……新モンスター、名付けて、『犬をダメにする箱』だ」


ぽんっと、俺の目の前に現れたのは、ミカンのダンボール箱であった。

その姿を見た段階で、助さんは、目をキラキラさせてほめたたえた。


「すごい! こんなモンスター、生まれてこのかた見たことございません!」


「くくく……驚くのはここからだ」


本当にここからだと思っていたので、むしろ驚かれたのが予想外だった。

一見、ただの箱に見えて、実は凶悪なモンスターである。

何も知らない犬たちが箱の中に入ると、彼らはとたんに眠りについてしまう。

とっても気持ちいいのだ。次から次へと箱の中に入ってゆく。

すやすや、と箱の底に折り重なって眠る犬たち。

ぱたん、と蓋が閉じられて、蓋が開くと、なんと1匹の犬になっているではないか。


モンスター同士を掛け合わせることで、新たなモンスターを生み出すめずらしい魔法。

その名も、『融合』である。


「おおーっ! さすがです、核さん、すごすぎるぅぅ!」


「ふっ、もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」


よかった。期待を裏切らない助さんでよかった。


こうして、進化犬の数はいい感じに減ってゆき、俺のダンジョンは縄張り争いによって破壊される危機をまぬかれたのだった。


だが、この狭いダンジョンを拡張するためには、さきほどの進化犬の破壊力が必要だったことに気づいたのは、犬をダメにする箱がダンジョンのあちこちに見受けられるようになってからなのだった。

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