第2話

ただの地面の穴が、モンスターを生み出す迷宮にクラスアップするには、膨大な魔力を持った核が必要となる。

無尽蔵に魔力を生みだし、モンスターを生み出し続ける核が。


どうやら、神様から無尽蔵に魔力を生みだす体をもらった俺が死んだとき、ダンジョンの核になった、ということだろう。

インプは俺の荷物だった『魔導白書』を開いて、だいたい俺が知っているような迷宮が生まれる仕組みを説明してみせた。


「核さん、このダンジョンに満ちたあなたの魔力によって、私は生まれたのですよ?」


「なるほどなー」


……と、楽観的に構えていた俺は、そこで、とんでもない事実に気が付いた。


「えっ、ひょっとして、俺の意志と関係なくモンスターが生まれてくるの? それヤバいじゃん」


今の俺は壁と同化していた。

動こうと思っても、動けない。

こんな状況で新しいモンスターが生まれたら、俺を襲わないだろうか。

インプのように中途半端に頭のいいモンスターばかりでもあるまい。

インプは、魔導白書を広げて俺に見せてきた。


「ご安心を。核のあなたは、このダンジョンの好きなところにモンスター・ボックスを生み出すことができるのですよ? ささ、どこに致します?」


「そうだなー……て、これ、奥行き10メートルしかないじゃん? どこに設置しても詰みじゃん?」


インプが開いてみせてくれた魔法地図のページには、現在俺のいるダンジョンのマップが記されている。

俺が最後に身を寄せた洞窟とほとんど同じ大きさだった。


どこにモンスターが出現しても、最大10メートル歩けば俺に当たる寸法である。

もうダメじゃん、これ詰んだじゃん。


モンスターにかじられて一巻の終わりじゃん。

俺が諦めかけていると、インプはさらに急かしてくる。


「ささ、早くモンスターの特性を決めるのです。早くしないと、もう勝手に生まれちゃいますよ?」


「えっ、マジかよ!?」


見ると、モンスター図鑑のページに、モンスターの姿がじわりじわりと浮かび上がりはじめていた。

見るからに凶悪そうなお顔をした、オオカミのモンスターだ。牙も爪も立派なものを持っている。これはヤバい。

俺は自分の身の安全の確保を第一に考え、モンスターの特性を考えた。


「えーと、牙なし! 爪もなし! 毒とかも特になし! 特技、なめまわし! 性格はいたって温厚! 人畜無害!」


俺が思い付きで言った通りの言葉が、魔導書のなかにつらつらと刻まれていく。

すると、モンスター図鑑が完成すると同時に、オオカミの耳をもったモンスターが俺の目の前に現れた。


ぽんっという音と共に現れたのは、コーギーのように愛らしいモンスターだった。

なにこれ、手足も短いし、カワイイ。


俺とインプを見るや、興奮して走り回った犬。


きゃんきゃん、かふかふ、きゃんきゃん、かふかふ


インプを舐めまわし、俺の足をぺろぺろ、と舐めまわした。

モンスター図鑑の名前が『犬』なのは適当すぎたか、と思ったが。

牙と爪をなくしたのはナイスチョイスだったな。

ちょっとくすぐったいが、かじられるよりかはまだましだったろう。


「さすが核さん! 不肖、このインプ、こんな立派なモンスター、生まれてこの方見たこともございませんよ?」


「生まれてこの方見たことないって、お前生まれて間もないんじゃないの」


おっさん顔で目をキラキラされてもあんまり嬉しくない。

けれど歯をむいて喜んでいるのはよくわかった。根はいい奴なのだろう。

しかし、奥行き10メートルの穴に犬とインプって、一体どういうダンジョンだこれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る