10メートル・ダンジョンの核さん

桜山うす

第1話

「核さん! 核さん! 起きるのですよ!?」


俺の耳に、小さな声が届いた。


目を無理やり開くと、しわくちゃのおっさん顔をした小人のような生き物がいた。

ダンジョンの低級モンスター、インプだ。


逃げようとしたが、体が動かなかった。

俺の体は、すっかり壁と同化してしまっていた。

動けない。

動けない俺に、どんどん近づいてくるおっさんの顔。

寝てりゃよかった。


魔法戦争もいよいよ終盤に差し掛かろうとしていた頃、俺は捨て駒のように前線に放り出されていた。

意地汚い長官たちは人員整理に忙しいらしく、通信機の連絡も最後には向こうに届かなくなった。


火球や氷の結晶が飛び交う戦場を、俺はひたすら逃げていた。

俺は辛うじて残った片腕で地面をはいずり、ようやく洞窟へと身を隠した。

奥行きたった10メートルほどの小さな洞窟だ。


モンスターの気配がない、ただの地面に空いた穴である。

俺はその最奥に身を横たえ、静かに死を待つだけだった。


ちくしょう、俺のいったい何がいけなかった。

異世界チートで神様に魔力をMaxにしてもらって、俺TSUEEEしまくっていただけなのに。

シンデレラの魔法使い的に好きな女の子をサポートして、地方領主にまで押し上げたあとはヒモとして好き勝手に魔法の研究をしていただけなのに。


そんな俺の胸によじ登ってきて、インプはじーっと俺の目を見つめていた。

ゲームの青鬼そっくりだった。

寝てりゃよかった。


「はじめまして、私はインプですよ?」


「……やめろ、俺を食うつもりか」


「私を、そこまで低能なモンスターと一緒にしないで欲しいのですよ?」


インプは、頬を膨らませて否定の言葉を言った。

おっさんがそんなカワイイ顔をするな。


いやまて、俺を食うつもりはない。じゃあ、一体どうするつもりだ?


まさか……神様から授かった、俺の魔力Maxが目当てなのか?


「私は、あなたを守るのです!」


「守る……どうして、そんなことを?」


「んーふ? あなたが、このダンジョンの核だからですよ?」


インプは、にまっと笑っていた。

なに、俺が、このダンジョンの、核?

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